イチョウ葉エキスに認知症の予防効果なし
約3000人の高齢者を対象にした無作為化試験の結果
イチョウ(Ginkgo biloba)の葉の抽出物は、生薬として、記憶と認知能力に対する作用を期待する人々に広く使用されている。だが、米Pittsburgh大学のSteven T. DeKosky氏らが行った無作為化二重盲検試験の結果、イチョウ葉抽出物を長期にわたって服用しても、認知症全般やアルツハイマー病の罹患率に影響は見られないことが示された。詳細は、JAMA誌2008年11月19日号に報告された。
イチョウ葉抽出物の認知症予防における有効性と安全性を評価した臨床試験はこれまでにも行われてきたが、いずれも適切なパワーを持っていなかった。また、認知症一次予防を目的として米国で承認されたイチョウ葉由来医薬品は現在のところない。
著者らは、イチョウ葉抽出物の効果を正確に評価するために、Ginkgo Evaluation of Memory (GEM) Studyを実施した。これは、認知機能が正常な高齢者と軽度認知障害の高齢者にイチョウ葉抽出物または偽薬を投与して、あらゆる原因による認知症とアルツハイマー病の罹患に対する影響を比較する二重盲検の無作為化試験で、米国内の大学病院5カ所で行われた。
2000年9月〜2002年6月に、市中在住の75歳以上の高齢者3069人(認知機能正常は2587人、軽度認知障害は482人)を登録。軽度認知障害はInternational Working Group on Mild Cognitive Impairmentが提示したガイドラインに基づいて判定した。
このうち1545人(平均年齢79.1歳)をイチョウ葉抽出物120mg1日2回に、1524人(同79.1歳)を偽薬に無作為に割り付けた。用いられたイチョウ葉製品は、米国で一般に使用されている独Schwabe Pharmaceuticals社のEGb 761で、用量については、過去に行われた臨床試験で用いられており、一般に使用されている中では最も高用量となる240mg/日を選んだ。
6カ月ごとに2008年4月まで認知症罹患について評価した。なお、高齢者が対象の臨床試験であるため、服薬遵守率と脱落については慎重に監視した。
主要アウトカム評価指標は、認知症とアルツハイマー病の罹患に設定された。認知症の診断は、DSM-IVをベースとして専門家により行われた。
追跡期間の中央値は6.1年で、脱落は6.3%だった。
試験終了時に介入群の60.3%が服薬遵守良好だった。服薬遵守者の割合は両群間で同等だった。
追跡期間中に523人が認知症と診断された。偽薬群は246人(16.1%)、イチョウ葉群は277人(17.9%)だった。認知症患者の92%はアルツハイマー病(疑い例または可能性例、もしくは脳血管疾患を伴うアルツハイマー病)に分類された。
認知症罹患率は、介入群で100人-年当たり3.3、対照群で100人-年当たり2.9だった。対照群と比較した介入群のハザード比は1.12(95%信頼区間0.94-1.33、p=0.21)で有意差はなかった。
アルツハイマー病の罹患率は、介入群で100人-年当たり3.0、偽薬群で2.6、ハザード比は1.16(0.97-1.39、p=0.11)で、やはり有意ではなかった。
脳血管疾患のないアルツハイマー病をエンドポイントとした場合と、脳血管疾患を伴うアルツハイマー病をエンドポイントにした場合のいずれも、ハザード比は有意にならなかった。
軽度認知障害のあったグループのみを対象に分析しても、両群間の罹患率に有意差は認められなかった(ハザード比1.13、0.85-1.50、p=0.39)。これは、イチョウ葉抽出物が軽度認知障害から認知症への進行にも影響を与えないことを意味する。
有害事象と重症有害事象の発生率にも差はなかった。
イチョウ葉抽出物240mg/日の服用は認知症またはアルツハイマー病罹患に有意な影響を与えなかった。したがって、認知症予防を目的とする服用は推奨できない、と著者らは述べている。
原題は「Ginkgo biloba for Prevention of Dementia」、概要は、こちらで閲覧できる。
大西淳子(医学ジャーナリスト) |