新薬登場で、視力悪化前の治療が外来で可能に
加齢黄斑変性に新常識
加齢黄斑変性は、網膜中心部の黄斑の老化で視機能が低下してくる疾患。患者は、視野の中心が「ゆがむ」「薄暗い」などと自覚症状を訴えることが多い。日本人の有病率は50歳以上の1%前後と言われている。
4年前に光線力学的療法が登場したことで多くの患者の治療が可能になった。さらに最近、新しい治療薬も発売された。
早期の治療開始が可能に、入院も不要
日本人の加齢黄斑変性の大半を占める「滲出型」は、脈絡膜から網膜に向かって、脈絡膜新生血管が伸びることで起こる。新生血管は破れやすいため、血管から血液成分や老廃物が滲出して押し上げて浮腫を生じ、視力が低下する。新生血管の増殖の引き金となるのは血管内皮増殖因子(VEGF)だ。
2008年10月に発売されたペガプタニブ(商品名マクジェン)は主に眼で働くVEGF165を抑制する。
国内の臨床試験では、患者の硝子体にペガプタニブ0.3mgを6週間ごとに注射すると、54週の評価でベースラインと比較してETDRS視力表で視力が改善または低下が15文字未満だった患者(レスポンダー)は78.7%だった。
「ペガプタニブの登場で、視力が下がる前の患者を早期から積極的に治療できるようになる」と駿河台日大病院眼科教授の湯澤美都子氏は期待する。
04年に日本で保険適用となり、現在、加齢黄斑変性の治療で主流になっている光線力学的療法(Photodynamic therapy:PDT)は、病巣部に光感受性物質を貯留させた上でレーザー光を照射し、新生血管を閉塞させる治療法。
日本人の患者ではPDTの治療効果は高いが、病変の周囲に虚血や炎症を起こすリスクがあり、治療時の視力が良いと視力が低下する可能性がある。そのため「見え方に不満を持っていても視力が0.5より良い患者は積極的な治療の対象にはならず、0.5以下になるまで経過観察として治療に慎重にならざるを得なかった」(湯澤氏)。
なお、PDTの実施には2泊3日の入院が必要だったが、薬物療法であれば基本的に外来で行えることも患者にとってのメリットになる。
待望の薬剤もまもなく登場
ペガプタニブの登場が、加齢黄斑変性の薬物療法を日本で広げるきっかけになるのは間違いない。ただし、眼科医はこの薬に完全に満足しているわけではないようだ。
ペガプタニブの臨床試験に参加した阪大眼科講師の五味文氏は「ペガプタニブは副作用の面では安全性が高いと考えられ、視力の維持には向いている。ただし、臨床試験で54週後にETDRS視力表で15文字以上、視力が改善した患者は8.5%だった」と話す。
実は新生血管を誘導するVEGFには、同様の機能を持つがアミノ酸配列が異なる蛋白質分子である「アイソフォーム」が主に5つ知られている。ペガブタニブが抑制するのはそのうちのVEGF165のみだ。この点が、視力向上の効果が表れにくい理由だと多くの専門家が考えている。
薬の効果を発揮するメカニズムと臨床試験の成績から、ペガプタニブ以上の効果を期待されている薬剤が、5つすべてのVEGFを抑制するラニビズマブ(海外商品名 ルセンティス)だ。
欧米では既に発売されており、臨床試験では4週間ごとに0.3mg投与すると、投与開始12カ月目のレスポンダーの割合は94.5%。ETDRS視力表で15文字以上改善したのは24.8%だった。日本では現在、承認申請中で、来年の登場が見込まれる。
香川大眼科教授の白神史雄氏は「患者の病態に合わせた薬剤の選択、PDTと薬剤の併用療法の検討が進められている。加齢黄斑変性で視力低下が進むと視力はなかなか改善しない。治療は数年前からめざましく進歩しているので、加齢黄斑変性の症状を訴える患者がいたら、早期に眼科へ紹介してほしい」と話している。
和田紀子
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