WFにもAEDを設置してあります。
スタッフも3か月に一回は研修。

心臓突然死

■■概説■■
  2002年11月21日、高円宮殿下がスカッシュというスポーツをされている最中に突然倒れ、救急隊員や医師らによる救命の努力もむなしく、亡くなられました。47歳というお若い年齢でした。それまでお元気に活躍されておられたので、まさに青天の霹靂(へきれき)でした。死因は「心室細動(しんしつさいどう)」(「不整脈」参照)と発表されました。
  ほとんどの心臓突然死が、この心室細動という不整脈によって起こります。そして心室細動を引き起こす病気には、心筋 梗塞や心筋症、あるいは遺伝性疾患などがあります。あらかじめそのような病気の存在がわかっていれば、何とか予防手段がとれる可能性があります。ですが、心筋梗塞が何の前兆もなしに、いきなり発症し、その数分後に心室細動が出現することがあります。まったく健康な少年が、野球のボールを胸に受けただけで心室細動になって命を落とすこともあります。そうなると日頃から食事に気を遣い、健康診断を受ける、といった予防法を守っているだけでは限界があるといえます。
  突然死を回避するには「予防」という考え方だけでなく、突然死になりかけた人を救う、いわゆる「 蘇生」というアプローチもあります。 蘇生法というと、心臓マッサージが有名で、確かに救急車が到着するまでの間、これを行うと助かる可能性が高まります。しかし、心臓マッサージそのものは突然死を生き返らせるという真の 蘇生法ではなく、ある意味で救急隊員が来るまでの時間稼ぎに過ぎません。実は真の 蘇生法、それも素人でもできる方法というものがあるのです。それを行うには、心室細動の特徴をもう少し詳しく知る必要があります。
  心室細動は不整脈の一種で、心臓が突然、けいれんを起こしてしまい、本来の役割である全身へ血液を送る仕事ができなくなってしまうものです。一瞬の間に心停止の状態になるのですが、死が訪れるには数分の余裕があります。実はこの心室細動という不整脈は、胸の上から電気 ショックを加えると、かなりの確率で元のリズムに戻ります。元のリズムに戻れば、全身も生き返る可能性があるのです。一瞬の臨死体験で済むのです。戻るかどうかは、心室細動が起こってから電気 ショックを加えるまでの時間にかかっています。1分遅れると、助かる可能性が10%ずつ下がるといわれます。10分を超えると、ほとんど助からないことになります。

■■救命方法■■
  これまで日本では、この電気 ショックを加える器械を救急車に積み、医者の代わりに救急救命士という資格を持った人が、現場に駆けつけてそれを使うのが一般的な救命方法でした。ところがこの方法では、100人中3人しか助かりません。倒れたのを目撃し、119番に通報するまでの時間、救急車が到着するまでの時間、器械を準備するまでの時間を合わせると、簡単に10分を超えてしまうのです。つまり、救命のプロに頼っているだけでは限界があるのです。本当に助けるのであれば、倒れてから5分以内、できれば3分以内に電気 ショックをかけないと駄目なのです。医者も救急救命士もいない現場で、一体どうしたらそんなことができるのでしょうか。
  答えは簡単です。現場にいる人、目撃した人が電気 ショックをかければよいのです。それしかありません。技術進歩のおかげで、今日では小型で、持ち運びができ、しかも使い勝手の簡単な電気 ショックの器械があります(図:AED)。

図AED

湿布のようなものを2枚、患者の胸に貼ると、あとは器械が、電気 ショックが必要な不整脈なのかどうかを自動的に診断してくれます。 ショックが必要であればそのように音声で教えてくれるので、最後にボタンを押せば、それで ショックがかかります。それだけで人の命が救えるのです。たとえ機械音痴の人でも、この「押しボタン式心臓救命装置」(自動体外式除細動器)なら、十分、使いこなすことができます。
  あとはこの器械を人の集まりそうな空港、駅、デパートとか、競技場やフィットネスセンター、あるいは会社やアパート、自宅などに置いておけばよいのです。欧米ではこの器械のことをAED(Automated External Defibrillator)と呼びますが、先進国アメリカではAEDを旅客機や連邦政府ビルに配置することが法律で決められています。ニューヨーク州では学校にAEDを必ず1台は置いておくことが義務づけられています。欧米ではAEDのおかげで、またそれを積極的に使う市民のおかげで、すでに多くの人の命が助けられています。

■■市民が救える唯一の心臓病■■
  日本ではどういうわけかAEDに対する理解が遅れていましたが、2001年暮れ、国際線の旅客機に初めてAEDが搭載され、客室乗務員が使えるようになりました。そして2004年、ついに厚生労働省が、このAEDを一般人が購入しても、使用しても法律上問題ないとの見解を示しました。それを契機に急速にいろいろな場所への配備が進んでいます。現場のAEDの活用により、すでに10名以上の心停止例が救命されています。これからもAEDの有用性を理解し、使える人が増えていかなければなりません。
  心臓突然死は市民が救える唯一の心臓病といってよいかもしれません。このAED、「押しボタン式心臓救命装置」さえあれば、心室細動は死を約束した不整脈ではなく、治せる不整脈とみなすべきです。ですが、医者や救急救命士に頼っているだけでは駄目です。市民が動かなければ救えないのです。心臓突然死の主治医は市民だということを忘れないで下さい。 (三田村秀雄)

臓器移植コーディネーター

2009.3.24 提供 家庭の医学