食生活のリズムは

体内時計に合わせて
10時以降の夜食は太る
夕食は塩分制限緩めでも

食事で栄養のバランスを気遣う人はいても、いつ食べるかが健康と深くかかわっていることを知る人は多くない。「夜食は太る」などと言われてきたが、実際に午後10時以降は脂肪が蓄積されやすい時間帯であることなどが分かってきた。「時間栄養学」と呼ぶ最新の研究に、健康な食生活を送るヒントを探った。

1日に3食をきちんと食べても、太る人と太らない人がいる。県立広島大学の加藤秀夫教授は、朝食と夕食の量が違うことに気づいた。

いつ、どう食べる


学生で調べると、1日の食事の半分を夕食でまかなう人は体重が増えた。これに対し、同量を朝食で済ます人は体重が変わらなかった。加藤教授は「1日としては同じ量でも、夕食で多く食べると太る結果になった」と説明する。

女子栄養大学の香川靖雄副学長も興味深いデータを示す。糖尿病の目安となるヘモグロビンの値が高すぎる人が、1年後に正常値に近づいた理由を調べた。夕食のカロリーを2割ほど減らし、逆に朝食を増やしたおかげだとわかった。

同じ内容の食事でもタイミングしだいで体への効果が違う。これまでの「何を食べるか」から「いつ、どう食べるか」を考えるのが時間栄養学だ。香川副学長は「時間栄養学が注目されるようになったのは、体内リズムを刻む時計の働きが詳しく分かってきたことが背景にある」と指摘する。

体のリズムを刻む仕組みを体内時計と呼ぶ。生体内でたんぱく質が増減を繰り返し、ほぼ1日の周期でリズムをつくる。脳のほかに、体の隅々の細胞に見つかっている。体内時計のリズムに体温やホルモン分泌、細胞活動などが同期する。このためおのずと食事にふさわしいタイミングや、とるべき量が決まってくるようだ。

それだけに体内時計にあったリズムで食事時を選ばないと、健康を損ねてしまうかもしれない。
日本大学の榛葉繁紀准教授によると、体内時計の働きをつかさどるたんぱく質の一種は、午後10時ごろから深夜にかけて昼間の20倍にも増えるという。ところが「このたんぱく質は細胞に脂肪をため込む性質があった」(同准教授)。

量が増える午後10時以降は、実は脂肪を蓄積する厄介な時間帯だったのだ。むやみに食事をとれば、体に多くの脂肪が付きかねない。「(夜食に手を出すなど)昼夜のメリハリがない食事はコレステロールの上昇を招く」。不規則な食生活に警鐘を鳴らすのは、名古屋大学の小田裕昭准教授だ。

ネズミにコレステロールを高めたエサを朝と夜の1日2回、規則正しく食べさせた場合と、同じ量を4回に分け、6時間ごとに昼夜を通じた食べさせた場合を比べた。

規則正しい食生活のネズミは血中のコレステロール濃度が1デシリットル当たり200ミリグラムだったが、不規則なネズミは同260−270ミリグラムに跳ね上がった。

栄養分効果的に

体内時計をうまく利用すれば、食事や栄養分の効果を高められる可能性がある。

高血圧などを引き起こす心配がつきまとう塩分。「尿に排出される食塩は、夜の方が朝に比べて2割以上多い」(加藤教授)。血液中のアルトステロンと呼ぶホルモンが朝に高く、夜に低いリズムなどが影響しているという。

こうした現象を逆手にとれば「食事の塩分を制限するのは朝や昼にとどめ、(体外への排出が多い)夕方は制限を緩めて豊かな味わいを楽しむゆとりがもてる」。

「骨が夜につくられ、朝に体内へ吸収されるリズムに合わせれば、骨の破壊を防ぐ薬は朝、骨の形成を促す薬やカルシウム分は夕方に飲むのが合理的」(香川副学長)との提案もある。

女子栄養大学の堀江修一教授らは、血栓をできにくくするたんぱく質の量も、朝方に夜よりも多くなることを見つけた。「リズムをずらすなどの方法があれば、朝方に患者が目立つ脳梗塞(こうそく)などの治療に役立つかもしれない」

時間栄養学の研究からは、意外な事実も明らかになってきた。早稲田大学の柴田重信教授は「食事自体が体内時計のズレを修正する」と語る。

ハワイ行きの日本人ツアー客に3日前から現時時間に合わせて食事をとってもらった。現地到着後に時差ボケの年配客が減ったという。

体内時計に合わせて規則正しく食べる。それが正しいリズムを刻む原動力になる。食事との関連が強いことから「腹時計」とも言われる体内時計を普段から意識し、食卓に向かうたびにその針の位置を確かめてみてもいいかもしれない。   (加藤宏志)

体内時計に合わせる主な食事例


・夕食を減らして朝食を多めにする
・夜遅くは脂肪になりやすい献立は避ける
・昼夜を通じて不規則な食生活は改める
・骨の形成を促すカルシウム分は夕方に摂取する
・朝食と昼食の塩分は少なめにする
・体内時計のズレで体調がすぐれない時は、食生活を改善する

ひとくちガイド
《本》
◆朝食の大切さを学ぶなら
「科学が証明する 新・朝食のすすめ」(香川靖雄著、女子栄養大学出版部)
《ホームページ》
生活習慣の改善で健康を目指すなら

「早寝早起き朝ごはん」全国協議会(http://www.hayanehayaoki.com/



2008.4.27 提供 日経新聞