食中毒の季節 要注意

増加続くO157感染
子どもや高齢者重症化 30秒の手洗い徹底を

夏は食中毒に要注意の季節。細菌が原因のタイプが多く、中でもO(オー)157に代表される腸管出血性大腸菌に感染すると重症化し、死に至ることもある。一時ほど話題にならないが、実はここ数年、増加傾向が続いており専門家は警戒を強めている。

腸管出血性大腸菌の感染症はかつてより集団発生は減ったものの、散発的な事例が相次いでいる。国立感染症研究所がまとめた感染症発生動向調査によると、全国からの年間(1−12月)報告数は一昨年、昨年と増加。昨年の4,606例は同調査の年間データがある2000年以降では最も多かった。今年も、6月22日までの1週間で132例(速報)と、週間で今年初めて100例を超え、増えるシーズンに入った。

腎不全併発の恐れ


食中毒全体の中では発生が多くないほうだが、「コレラなどが減ってきて、今では重症化しやすいものの筆頭」と同研究所の岡部信彦・感染症情報センター長は指摘。特に「子供やお年寄りが重症におちいる恐れがきわめて高い」と注意を促す。

症状はまず激しい腹痛や出血を伴う下痢など。悪化するとHUS(溶血性尿毒症症候群)という急性腎不全や意識障害などを起こす脳症を併発するので、早めに医療機関に行く必要がある。

他の細菌に比べ少量でも発症する。経口感染し、潜伏期間は1−10日、多くは3−5日。おおもとは牛の腸管やレバーだが、調理や加工などの過程で様々な食材に広がる恐れがある。細菌は熱に弱いので、予防には食肉を十分に加熱。野菜などは洗浄する。

飲食店などの対策だけでなく、「個人の注意でもかなり防げる」(岡部センター長)。例えば焼肉店では生肉をつかんだトングやはしで、焼いた後の食べる肉をとったりせず、道具は別々にする。生肉に触れた野菜にも気をつける。生レバーや肉のたたきなどが感染源と推定されるHUSが小さな子供で発症しており、大人が食べるからといって同じ生のものを子供にまで食べさせない注意も大切という。
手に便が付いて飲食物を汚染するなどして、人から人へと二次感染しやすいのも特徴。特に家庭内で食中毒が出た場合は手洗いの徹底などで感染拡大を防ぐ。

集団発生が昨年、目だった施設は保育所だ。おむつや排便の世話などを通じて感染が広がる恐れがあるという。また学校などの通常のプールは衛生基準で管理されているが、そうではない家庭用のビニールプールなどでは水の交換や消毒に気をつける。

料理順番も大切

このほか基本的な注意は他の食中毒とも共通で、厚生労働省の「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」などが普及している。

予防には手洗いが基本中の基本なのはだれでも知っているだろうが、自分を振り返ってみて、どの程度実践しているだろうか。花王の生活者研究センターが昨年まとめた小中高生についての調査によると、小学生が一番きちんと洗っており、中学、高校になるに従い1回の手洗い時間が短く、せっけん使用率も低くなった。「大人も高校生とたいして差はない」と小島みゆきリサーチリーダー・主任研究員は説明する。

調理業などでは手洗い時間が30秒必要とされるが、同調査の高校生はそもそもせっけん使用率が4%しかなく、ほとんどの人は使わずに平均時間がわずか1.9秒。使う人でも6.3秒だった。30秒が非常に長く感じるのが原因という。

花王は小さな子供向けに、洗うときの大事な6つのポーズを歌いながら身につける活動をはじめ、昨冬からそのDVDを小学校などに無料配布している。歌にあわせて6段階を経るうちに自然と30秒たつ仕組み。大人にもおすすめで、医療や介護の施設からも引き合いが来ているほどだ。

また、家庭で料理するときにうっかりしやすいのは「前に何を触ったか、次に何を触るのかという順番」(小島リサーチリーダー)。生肉を扱った後でサラダを作るのではなく、サラダを先にするといった注意だ。

もっとも、手洗い同様、知っている人は多いはず。わかっていても、ついつい怠りがちになる――気をつけたい。   (編集委員 賀川雅人)

ひとくちガイド
《ホームページ》
◆食中毒の予防など各種情報なら
厚生労働省「食中毒に関する情報」(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/index.html
◆子供が手の洗い方を学ぶのに役立つページなら

買おう「あわあわ手洗い教室」(http://www.kao.co.jp/biore/biore-u/handsoap/index.html

 


2008.7.6提供 日経新聞