入浴方法、まちがってませんか

 

 真冬にお風呂にゆっくりつかると、体が芯から温まって快適だ。しかし、入浴の仕方には誤解もあるという。効果のあげ方を専門家に聞いた。

 風呂に入ると、単純に肌がきれいになるだけではない。
「体内の老廃物や疲労物質を早く体外に排出できるし、筋肉のこりや痛みも取り除ける」と語るのは、内幸町診療所(東京・千代田)の内科医で温泉などに関する著書が多い植田理彦さん。
 特に、体に優しい入浴方法として、近年流行しているのが半身浴だ。ただ、植田さんは「どんな場合でも胸までしかつからないことを推奨しているわけではない」と話す。
 確かに、昔ながらの狭くて深い日本式の浴槽の場合、体、特に下腹部に高い水圧がかかる。その結果、血管が圧迫されて心臓に負担がかかる。「これを防ぐのが半身浴の本来の目的」(植田さん)だ。

ぬるめが原則
ところが、最近の風呂は、浅めで足を伸ばして入れるタイプのものが多いので問題は少ないという。無理にお湯を少なめにする必要はないわけだ。東京ガス都市生活研究所で入浴に関する研究をしている杉山智美さんは「深い浴槽につかる場合も、沈むように工夫されている半身浴用のいすを使えば、体への負担を軽くできる」とアドバイスする。

 風呂の温度は、基本的に38−40度程度のぬるめがいい。ただ、深夜に勉強や仕事をしたいときや気分良く目覚めたい朝には、42度以上の熱めにする。ぬるいと体をやすめようとする副交感神経が働くのに対し、熱めだと体を活動的にする交感神経が優位になるからだ。

 ダイエット目的でサウナや熱風呂に入る人も多いが、植田さんは「効果が薄い」とばっさり。流した汗だけ体重は一時的に減るが、その分の補給が後から必要になるからだ。
 むしろ、ぬるめの風呂にゆっくり入り、基礎代謝(じっとしているときのエネルギー消費)を上げる方が減量効果は大きいという。体を芯から温めれば保温効果が高まり臓器が活発化して基礎代謝が上がる。この状態を保ったまま就寝すれば、基礎代謝が上がった状態が持続するという。食事前の入浴は食べ過ぎを防ぐ効果もあるという。皮膚に血液が集まって胃腸の血液が減り、胃液の分泌が減るためだ。

 二日酔いのときも、ぬるめの入浴なら効果がある。アルコールを大量に摂取した当日は、せいぜい軽くシャワーを浴びる程度にとどめる。翌朝、コップ1杯以上の水を飲んでからぬるめのお風呂に30分程度つかると「腎臓の働きが活発になり、尿から代謝物質が排出され、すっきりとする」(植田さん)。汗から排出される代謝物質の量は少ないので、熱い風呂に短く入っても効果は薄いそうだ。

温度差に注意
 風呂でのツボ刺激も二日酔いに効くようだ。日本経路指圧会の佐藤一美会長によると、親指と人差し指の付け根に手の指をあて、足首に向かい滑らせ、止まったところに肝臓などのトラブルに効果があるツボ、「太衝(たいしょう)」がある=上図参照。「ここを42度程度のシャワーで3分ほど刺激するとよい」
 これまで見たように熱い風呂は一部のケースを除いてメリットは少ない。それでも、日本人が熱い風呂を好む理由は、内風呂がなかったころの名残とされる。銭湯や庭先にある風呂から戻るとき、外気で冷えるのを防ぐためというわけだ。ぬるめでは物足りない人は、出る前に追いだきして温まるのがおすすめだ。

 入浴には、意外な落とし穴もある。風呂場の事故で死亡する人数は東京救急協会の調べで1万4千人程度(2000年)。これは06年の交通事故死者数の2倍以上だ。60歳代以上が全体の90%以上を占め、時期は11月−3月に集中している。原因のほとんどが、心不全やそれに伴う水死などと見られている。
 原因の1つは浴室の室温と湯船の温度差。お年寄りには急激な温度差は危険だ。浴室は家の中でもっとも温度の低い場所の1つ。高齢者がいる家庭では@シャワーから給湯して浴室の温度を上げるAあえて2番・3番風呂に入ってもらうB浴室暖房を設置する――などの工夫が必要だ。

  風呂掃除にも触れておこう。やっかいな家事の1つだが、ちょっとした気遣いで軽減できる。最後に風呂に入った人が残り湯を捨てるときに、タオルなどで水面付近の高さを軽く擦っておくだけで浴槽にこびりつくあかを減らせる。「体の汚れが溶け出した残り湯でも浴槽を洗うには十分」(杉山さん)という

正しいお風呂の入り方
浴槽の深さと半身浴
 半身浴の目的はお腹や下半身の血管が水圧で圧迫されるのを防ぐこと。「胸までしかつからない」「肩までは入らない」ことではない。浅めの浴槽なら肩まで入っても問題は少ない。深めの浴槽の場合は半身浴用のいすを使う

体重を減らしたい
 熱い湯につかって汗をかいても継続的に体重は減らせない。適度に体を温めて就寝すれば、基礎代謝が上がりダイエットにつながる。食事前の入浴は胃液の分泌を抑え、食べ過ぎを防げる

二日酔いにはぬるめがいい
深酒をした当日はシャワー程度にとどめる。翌朝、水分を十分にとり、ぬるめの風呂に30分前後はいるのが有効。二日酔いの原因である代謝物質は汗よりも尿から多く排出するので、体を活性化して排尿を促すといい
足の甲に二日酔いに効くツボ。強めのシャワーで3分ほど刺激

目覚めたいとき
熱い湯がおすすめなのは目を覚ましたいとき。夜遅く勉強や仕事をするとき、朝すっきりしたいときは普段の入浴温度より3−5度高いシャワーを3−5分浴びる

かぜのときは入る?入らない?
ひえからかぜをひくことがあったので、以前は風呂で暖まるとよいとされていた。近年はウイルスによるかぜが増えた。入浴するとウイルスが活性化するので、熱が高い間は決して入らない。鼻づまりや喉の痛みだけなら短時間の入浴はおすすめ。ただし、湯冷めには注意

高齢者に向くのは
風呂での事故が多い理由は大きな温度差が心臓に負担をかけるため。シャワーで給湯したり風呂のふたを開けたりして湯気で浴室の温度を高めるといい。家族の後の2番・3番風呂に入ってもらえば、浴室は温かくなる

シャワーだけでは不足
シャワーを浴びるだけでは皮膚表面の汗を洗い流すことしかできない。欧米人はシャワーの前にスポーツクラブで汗をかいたり、体に長時間泡をつけたりすることで汗腺の汚れも落としている
風呂からあがるときは

最後の人が残り湯を捨てるとき水面付近をタオルで軽くこすっておいたり、カビのもととなるせっけんやシャンプーの残りかすをシャワーで洗い流したりするだけで、のちの掃除が楽になる
おけを壁にたてかけておけば水がよく切れる
日本人が熱い風呂を好む理由

銭湯帰りに冷えるのを防ぐため。内風呂が少なかったころの名残。ぬるめで物足りない人は出る少し前の追いだきがおすすめ
(植田理彦さん、佐藤一美さん、杉山智美さんの話に基づいて作成)


2007.1.13 記事提供 日経新聞社