バランスボールで なまった体再起動

ゆるゆる動いて骨盤正す

 スポーツをするのに絶好の季節がもうすぐやってくる。普段、運動をしない人がいきなり激しく体を動かすと、けがをすることに。なまった体を運動に慣らすため、弾力のある大きな「バランスボール」を使ったトレーニングが中高年に人気。ゆっくりと筋肉を鍛え、ゆがんだ骨盤を正してくれるという。

 「お尻はボールの真ん中に。おなかに力を入れて」。都内のフィットネスクラブ、ティップネス池袋店の一室に、インストラクターのかけ声が響く。約30人の参加者の多くが中高年の女性。軽快な音楽に合わせて大きなボールの上で腰を弾ませる。ボールを両手でかかえて足の屈伸運動をすると、顔から汗がしたたり落ちてきた。

元々はリハビリ用。
 「バランスボール」は「Gボール」とも呼ぶ。大きさは直径50センチ程度。上に座ったり体を乗せたりしながらトレーニングをする。元々は運動障害の治療やリハビリ用に開発されたもので、数年前、日本でも「ダイエット効果が期待できる」と若い女性の間で人気になった。
 都内に住む主婦の伊藤恵子さん(仮名、43)は3年前からボール教室に通っている。出産後10年以上、腰痛のため特に運動はしてこなかった。トレーニングの回数は週1、2回だが、「以前よりも足が楽に動くようになった。腰もそれほど痛くない」とうれしそう。

 筑波大学人間総合科学研究科の白木仁・准教授(スポーツ医学)は「ボールを使ったトレーニングはほとんど運動をしなかった人が体を動かす習慣をつけるのに最適」と語る。運動不足の人は筋肉の血液の流れが悪く、酸素が少ない状態になっている。急に動かすと筋肉痛やけがを起こしやすい。また、筋肉の量は使わないと加齢に伴い減る。「50代の腹筋の力は、20代の約3分の2まで落ちている」(白木准教授)

深層筋まで鍛える
 ボールを使えば、例えば上に座って腰をぐるぐると回す簡単な動きを繰り返すだけで、体にあまり負荷をかけずに筋肉の血流をよくすることができる。ボールは不安定なため、落ちないようにしようと自然に上半身に力が入る。おなか、背中や腰の筋肉だけでなく、体の内部の深層筋まで総合的に鍛えることになる。
 歩いたり走ったりする際、重要な機能を担う股(こ)関節。骨盤がゆがむと股関節がうまく動かず、つまずくなどの原因になる。ボール運動でゆがんだ骨盤を正常な状態にすることも期待できる。
東京大学大学院総合文化研究科の渡會公治・准教授(スポーツ整形外科)は「骨盤の周りの筋肉に普段かからない力がまんべんなく加わりひずみを解消し骨盤のバランスを取り戻していく」と解説する。股関節が動きやすくなると、足の付け根からしっかり踏み出して歩き出せるようになる。

  ボールによるトレーニングは家の中で楽しみながらできる。テレビを見ながら、ボールに座って足を上げ下ろしするだけでもよい。
 ボールはスポーツ用品店や健康器具を扱う店などで手に入る。価格は千円台から六千円台までまちまち。大きさもいろいろあるが、座ったときにおなかと太ももの角度と、太ももとひざの角度がそれぞれ直角になるものを目安に選ぼう。         
(長倉克枝)

中高年におすすめのボールを使ったトレーニング(白木・准教授の話をもとに作成)
@おなかに力をいれて、ゆっくり腰を回す。背筋は伸ばす
A左足だけ地面から離し真っ直ぐ伸ばして30秒間静止。右足も同じように。2、3セット繰り返す。
Bうつぶせになり背筋を意識して左足を地面から離して真っ直ぐ伸ばして30秒間静止。右足も同じように。2、3セット繰り返す。慣れてきたら同時に両足を上げたり、腕を上げたりする
C(上級者向け)ボールを両ももで挟むようにして上に乗ってバランスをとる。全身の筋肉に効果が期待できるが、転倒しないように気をつける

ひとくちガイド
《本》
◆ボールを使ったトレーニングをDVD付きで紹介
「バランスボールエクササイズ」(中野ジェームズ修一・監修、成美堂出版)
《ホームページ》
◆講習会などの情報を掲載
日本Gボール協会(http://www.g-ball.org/index.html

2007.9.16 記事提供 日経新聞