疲れがたまると、目元にできる「くま」。かつては「病気ではない」と軽視され、関心を持つ研究者は少なかった。しかし女性の社会進出が増え、目を長時間酷使するコンピューター作業が定着したことなどで、90年代後半から相談が急増。化粧品メーカーによる研究も進んでいる。
市橋正光・神戸大名誉教授(皮膚科学)は「一口にくまといっても、原因によって『青くま』と『茶くま』の二つに大別される」と説明する。
疲れ、ストレスによって、血行が悪くなるとできるのが青くまだ。酸素が少なく青黒い静脈血が、目の下に大量に滞ることで起こる。まぶたや目の周りの皮膚の厚さは0・6ミリ。顔のほかの部分の皮膚の約3分の1の厚さしかないが、皮下には多くの血管が走っているため、血液の色が他の部位より透けやすいのだ。
一方、紫外線や摩擦による刺激で傷んだ細胞でメラニン色素が増えて、皮膚に沈着したのが茶くまだ。目の周りは皮脂腺や汗腺が少なく角質が薄いため、乾いて傷つきやすいことで起こる。
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ではそれぞれの予防や対処法はどうすればいいのか。
市橋さんは「青くま解消には血行を良くするのが一番」と話す。入浴やマッサージでも改善できるが、市橋さんが「即効性がある」と勧めるのがカシス。カシスに含まれるポリフェノールの一種アントシアニンが細い血管を拡張し、血液を流れやすくする働きがある。
市橋さんらが、カシスアントシアニン50ミリグラムを含有したドリンクを女性33人に飲ませて目元の血流を測ったところ、15-90分で血流量が3-8%増加した。肌の色も黒みが減って赤みが差し、実験後の聞き取り調査でも7割が「くまが改善された」と答えたという。
資生堂スキンケア研究開発センターの舛田勇二・主任研究員は「ビタミンEにも血行促進作用があるので、普段使っている化粧品に含まれているか確認してほしい」と促す。
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茶くまでは、色素生成を抑えることと、できてしまった色素を早く皮膚から排出するのが対処の柱だ。
舛田さんが、20代と50代の女性を対象に、くまの有無と目元のメラニン量の関係を調べると、どちらの世代でもくまのある人の方がメラニン量が多かった。また、50代の方が20代よりメラニン量が多かった。
別の調査でも年齢が上がるほど茶くまに悩む女性が増えており、舛田さんは「年齢とともにメラニン量が増え、茶くまができやすくなるようだ」と推測する。
舛田さんらによると、ビタミンCに色素生成を抑える働きがあり、アセロラやレモンなど果物や野菜で摂取できる。美白成分入りや保湿効果のある目元用化粧品も市販されている。
市橋さんは「沈着が浅ければ、メラニンも古い角質と一緒にそのうち排出される。新陳代謝の改善も心がけてほしい。入浴や十分な睡眠は代謝にも良い」と話す。
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英語でくまを表す言葉すらないほど、欧米では関心を払っていなかった。舛田さんによると、最近になって「dark eye circles(目元の暗い円)」という言葉が定着してきた程度という。これに対し、日本人は以前からくまを意識していた。くまの語源は、歌舞伎役者が施す赤や黒の化粧「隈取(くまどり)」に由来するという説があるほどだ。
だが研究の歴史が浅いこともあり、わからないことも多い。一般に徹夜明けなどで疲労が蓄積した場合にくまが出るように思われている。舛田さんが、18歳-50代の女性200人を対象に行った調査でも、半数以上が「くまが目立つのは朝」と回答した。一方、社員に徹夜で過ごしてもらい目元を観察すると、宵の口と朝方で変化はなく、徹夜後に仮眠をとって午後に起きたらくまができた社員が多かった。舛田さんは「寝ている時には血管が拡張し、起きると血管が収縮することと関係があるのかもしれない」と推測している。
【林田七恵】
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