動脈硬化と脂質摂取

動脈硬化を促進する酸化コレステロール。
料理の過程でできる厄介者にご用心。

 日本人の死因の1位はがん全体でおよそ30万人。2位が心臓疾患、3位が脳血管疾患で、両者で30万人に及び、脳のほうは横ばいだが、心臓は漸増傾向にある。
 どちらも動脈硬化が原因で生じるが、その真犯人はと問えば、多くの中高年が「悪玉のLDLコレステロール。これを140以下に保つのが目標」と答えるだろう。メタボ健診(特定健診)でもおなじみだ。その日本人のコレステロール摂取量は、いまや欧米人に匹敵するという。

 「コレステロールは細胞膜やホルモンなどの材料となり、生命維持に不可欠ですが、過剰に摂取または生成されて、血液中に増えすぎると厄介。殊にコレステロールがタンパク質と複合して運ばれるときの姿であるLDLは血液中に停滞し、血管壁に入り込みます
  血管壁は血液内と違って酸化を受けやすく、酸化に伴って性質が豹変しますが、これこそ動脈硬化の元凶。免疫細胞の1種のマクロファージが、酸化したLDLのみを際限なく取り込み、蓄積して血管壁の塊となるのです。破裂することもあり、そうなると破れを修復しようと血小板が集まって血栓を作る。血栓が詰まると心筋梗塞や脳梗塞につながります。
 酸化LDLはそれ自体で血管壁を傷つけ、動脈硬化の原因になるのです」とは大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学講座の森下竜一教授。

 実は、酸化コレステロールを直接摂取してしまうこともあるという。
「酸化コレステロールは、調理で揚げたり焼いたり干したり、あるいは保存する過程で、食品中のコレステロールが劣化(酸化)して生成されます。開封してから時間の経ったバターや、マヨネーズが黄色の半透明になった部分もそうです。コレステロール摂取量が増えるほど、あるいは熱を加えれば加えるほど酸化コレステロールも多くなります。米国などでは、酸化コレステロールのほうがコレステロールそのものよりも動脈硬化に深く関与すると考えられ、注意を喚起しています

日本の食文化もマイナスに

 日本人の酸化コレステロール摂取量は米国人の2倍にもなるという。例えばファストフードやコンビニ弁当の利用者が多い10代男子で1日に500mgと試算されている。単身高齢者の生活も大量摂取しやすいはずだ。
 「料理上手の人にとって、カラリと美味しい揚げ物は2度揚げするのが常識ですし、煮物も食卓に供する時温め直すのが普通。熱々ホカホカは一種のご馳走ですが、その心遣いが動脈硬化を助長する面がある。おでんの具の最多の酸化コレステロールを有するのは卵ですが、温め直しを繰り返すほど質の悪い酸化コレステロールが増加します。また、人気のロールケーキはスポンジより生クリームが多く、美味しい代わり酸化コレステロールの好材料。米国にこんなケーキはないので、こんなところにも急増の理由がみつかります」
 摂取量増加に加え、美味しく食べる工夫を惜しまない日本の食文化が思わぬ厄介者を引き込むこともあるわけだ。

 だが、伝統的和食なら脂質が少なく、抗酸化物質を多く含むので酸化しにくい。そこで、食品の保存は空気に触れないようにし、揚げ物などの再加熱を避け、抗酸化(ビタミンC・Eやポリフェノール、カテキンなどを含む)食品を摂る。運動も重要。それで不十分なら薬も必要になる。脂質摂取にはトランス脂肪酸の問題もあり、悪い脂質は血管の大敵だ。家族が口にする様々な食品を化学的観点から点検してはいかがだろう。

酸化コレステロール摂取を軽減するには……

・調理用油脂を選び、二度揚げやフライの油の長期保存を避ける
・揚げ物や卵の温め直し(特に電子レンジ利用)は避ける
・バラ肉、霜降り肉など脂身が多い肉は、網焼きかゆでる調理
・ファストフードや油脂を多用した加工食品を控える
食物繊維(野菜、きのこ、海藻、雑穀など)を努めて多く摂る
抗酸化食品(ビタミンCやポリフェノールなど)も意識的に摂る

 

2010.3 記事提供:大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学講座