慢性肝疾患
高カロリー高蛋白食が基本か

慢性肝疾患よくある指導

肝硬変患者のBMI別肝がん発症率

BMI25未満の肝硬変患者では、148人中19人(12.8%)、BMI25以上の患者では55人中15人(27.3%)が肝癌を発症。肥満があると肝癌の発症リスクは2倍以上高い。(出典:HepatolRes2006;35:204-14./成人病と生活習慣病2009;39:439-44.)

  アルコール性肝硬変の患者は栄養状態が悪く、高カロリー高蛋白食を摂取すると、肝機能が改善する。戦後間もないころの欧米のこうした報告をきっかけに、長年、国内でも慢性肝疾患の患者には高カロリー高蛋白食が勧められてきた。

  だが、食生活は大きく変わり、慢性肝疾患の中では今、脂肪肝が問題になっている。肝臓病の専門医で、慶応大看護医療学部教授の加藤眞三氏は、「国内でも、肥満の肝硬変患者が増えている。肝硬変患者の発癌リスクに肥満が関与していることも最近明らかになり、専門医の間で問題視されている」と話す(図1)。食事指導においては、“高カロリー”どころか、肥満を意識した栄養管理が重要になってきているのだ。

  「高蛋白食にすることの根拠も乏しい」と加藤氏は指摘する。肝硬変になると肝臓でのアルブミン生成能が低下するため、蛋白質を過剰に摂取しても栄養改善にはならない。肝臓に代謝の負担がかかり、アンモニア産生を増加させる恐れもある。肝性脳症の既往がある非代償期では、むしろ低蛋白食が必要になる。

肝硬変患者の運動の有無によるQOLの違い

運動群(n=14)と非運動群(n=15)におけるQOL の違いを、SF-36 で評価した。SF-36 は、8項目のサブスケールからなり、健康関連QOL の尺度として、国内外で広く使われている。運動実施群では、非実施群と比較して、8項目すべてでスコアが高かった。図は、身体役割機能と心理的役割機能の項目を抽出。

  肝硬変患者への食事指導では、なるべく肝臓に負担をかけないよう、バランスの良い食事を取ることが重要だ。島村トータル・ケア・クリニック(千葉県松戸市)院長の島村善行氏は、「動物性蛋白を取りすぎると、便秘からアンモニア吸収が進み、肝性脳症を起こすリスクがあるので、植物性蛋白を中心に取る。また、穀物や野菜、食物繊維を十分に取った方がよい」とアドバイスする。

  従来は肝硬変患者は安静にするよう強調されてきたが、慢性期には運動の有効性も明らかになってきた。肝硬変が進行するとグリコーゲンの貯留能が低下するため、脂肪や筋肉を分解して糖新生を行わなければならなくなる。運動することで筋肉量が増え、筋肉がアンモニア代謝、グリコーゲン貯留といった肝臓の機能を補うこともできる。

  現時点では、予後について明確なデータはないが、運動で筋肉量が増え、QOLが上がることは複数の報告で明らかになってきた(図2)。

  具体的な運動指導について、加藤氏は自らの著書『肝臓病生活指導テキスト(南江堂)』で提示している。激しい運動ではアンモニア値が上昇するため、まずはずっと続けられる程度の強度の有酸素運動を、30分を目安に続けていくとよいという。

2010.4.21 記事提供:日経メディカル