「コレステロール値が高いのですが、卵は食べてもいいでしょうか」。患者から一度はこんな質問を受けたことがあるはずだ。
確かに鶏卵は、1個当たり約215mgと多くのコレステロールを含んでいる。しかし、実際に卵摂取と心筋梗塞の関連を調べた厚生労働省研究班による多目的コホート研究(JPHC研究)の結果、卵摂取の多寡と心筋梗塞の発症リスクは関連しないことが明らかとなった。
この研究では、1990年代初めに40〜69歳の男女約9万人に対し、食事調査を実施。そのうち36%(約3万3000人)について血清総コレステロール値を調べたところ、卵の摂取頻度と血清総コレステロール値との間に関連性は認められなかった。
また、約10年の追跡調査の結果、卵を毎日食べる群に比べ、ほとんど食べない群でも、心筋梗塞の発症リスクは低下しなかった(図1)。つまり、この研究では、心筋梗塞などの動脈硬化性疾患を予防するために、卵を制限する根拠は得られなかったわけだ。
心筋梗塞リスクは卵の摂取頻度と関連しなかった。
(出典:Br J Nutr 2006;96:921-8.)
ただし、この結果からは「卵の摂取を控える指導が全くの誤りとまではいえない」。結果を分析した京都女子大家政学部教授の中村保幸氏はこう付け加える。一般住民が対象のJPHC研究で、卵の摂取頻度と血清総コレステロール値に関連がなかったのは、もともとコレステロール値が高い人が、動脈硬化を心配して卵の摂取を控えた可能性があるからだ。
80年に行われた大規模疫学調査(NIPPON DATA 80)では、卵の摂取頻度と血清総コレステロール値との間に相関関係が認められている(Am J Clin Nutr 2004;80:58-63.)。「卵の摂取と血清総コレステロール値の上昇には関連がないとは言い切れないので、やはり過剰な摂取には注意が必要」と中村氏は言う。
一方、「コレステロール値が高めで、動脈硬化を心配する患者の食事指導では、むしろ魚を積極的に摂取するよう勧めた方がよい」。こう話すのは、富山大和漢医薬学総合研究所教授の浜崎智仁氏だ。
前述のJPHC研究では、魚の摂取量が多いほど心筋梗塞の発症リスクは低下する傾向にあることが判明している(図2)。「魚に多く含まれるEPAやDHAなどには、動脈硬化性疾患やメタボリックシンドロームといった様々な疾患の予防効果が報告されており、魚の積極的な摂取のメリットは大きい」と浜崎氏は話す。
魚の摂取量が多いほど心筋梗塞リスクは減少した。
(出典:Circulation 2006;113:195-202.) |