今年のインフル、重症感強い香港型が流行の兆し

重症感強い香港型が流行の兆し

新型一色にはならない可能性大

 昨シーズン大流行した新型インフルエンザ(パンデミック2009H1N1)について症状や国内の死亡率を総括するとともに、今シーズンの流行を予測する。南半球の状況などから、今シーズンはパンデミック2009H1N1一色にならない可能性がある。

今期は新型一色ではない?
  2010年第44週(11月1日〜7日)時点で、国内の定点当たり報告数は0.20と、本格流行はまだ始まっていない。流行状況を予測することはできないが、今シーズンの国内での流行は、昨シーズンのようにパンデミック2009H1N1一色とはならない可能性がある。H1N1(Aソ連型)はほぼ分離されておらず、世界の専門家は同型が“消えてしまった”のではないかと考えているが、既に今シーズンの流行期を迎えた南半球では、パンデミック2009H1N1に加えてH3N2(A香港型)やB型の流行が認められた。

  そのため、今シーズンは国内でもパンデミック2009H1N1だけでなく、H3N2(A香港型)が流行する可能性やパンデミック2009H1N1とH3N2(A香港型)が混合流行する可能性が指摘されている。またB型が流行する可能性も否定できない。

  特に、H3N2(A香港型)は、中国などでの報告が増えているほか、国内では今年10月以降、H3N2(A香港型)の集団発生や小流行が全国で多発している。11月には秋田県の病院で入院患者や職員30人以上が感染し、8人の入院患者が死亡。患者の検体からはH3N2(A香港型)が検出され、H3N2(A香港型)による集団感染とみられている(関連記事:2010.11.10「秋田の病院でのインフル集団感染、新たに2人死亡」)。

  感染症研究所感染症情報センター主任研究官の安井良則氏は「H3N2(A香港型)は、過去2シーズン流行しておらず、ブースター効果による免疫が維持されていないため、流行しやすい可能性がある」と話す。

図2

図2 今シーズンのインフルエンザワクチン株
H1N1(Aソ連型)に替わり、今シーズンのワクチンにはパンデミック2009H1N1の株が使われている。H3N2(A香港型)については、ワクチン株を感染させたフェレットの血清を用いた交叉反応試験で、流行株との交叉反応性が不良とされ、有効性には不安も残る。

 H3N2(A香港型)は、比較的重症感が強いインフルエンザとして知られている。先に紹介した日本臨床内科医会の検討でも、H1N1(Aソ連型)やパンデミック2009H1N1に比べて、H3N2(A香港型)は症状が重い傾向にあった。河合氏は、「H3N2(A香港型)は、高齢者が肺炎を合併する率なども高い。早期にインフルエンザと診断して治療を始めることが重要だ」と注意を促す。

  今年のワクチンには、パンデミック2009H1N1とH3N2(A香港型)、B型の株が含まれている(図2)。安井氏は、「昨シーズン、パンデミック2009H1N1に感染・罹患しなかった小児や高齢者も多い。また、今シーズンはパンデミック2009H1N1以外が流行する可能性も十分にあることから、積極的にワクチンを接種すべきだ」と呼び掛ける。


この記事は日経メディカル2010年11月号特集「今シーズンのインフルエンザ対策」の転載です。


 2009/10シーズンに大流行したパンデミック2009H1N1は、例年とは全く異なる流行パターンを示した。定点当たり報告数は48週(11月23〜29日)にピークに達し、年明けの12週(3月22〜28日)にはほぼ終息。昨シーズンを通じて、分離されたウイルス株の98%をパンデミック2009H1N1が占め、ほかのタイプはほとんど確認されなかった。

  WHOは2010年8月10日、流行状況がポストパンデミックになったとの声明を出した。それを受けて日本政府も8月27日、感染症対策を通常の季節性インフルエンザ並みに戻し、政府の新型インフルエンザ対策本部も解散することを決めた。

軽症者の症状は季節性程度
  パンデミック2009H1N1に感染した軽症患者について、日本臨床内科医会インフルエンザ研究班長で河合内科医院(岐阜市)院長の河合直樹氏は、「大部分の患者の症状は、季節性インフルエンザとあまり変わらないか、多少軽かった」と話す。

  同研究班では、05/06シーズンから昨シーズンまでにA型の感染が確定した1070人を対象に、診断確定時の症状を比較。その結果、パンデミック2009H1N1患者では、咽頭痛や鼻水、頭痛、筋肉痛、食欲不振、倦怠感などの出現率が、H1N1(Aソ連型)患者やH3N2(A香港型)患者よりも有意に低かった(表1)。

  パンデミック2009H1N1に感染した軽症患者には、抗インフルエンザ薬がよく効いていたことも分かった。

表1

表1 A型に感染した患者の症状(日本臨床内科医会による)
PCR法で感染が確定した患者を対象とした。H3N2(A香港型)は05/06と06/07、H1N1(Aソ連型)は07/08と08/09の2シーズン、パンデミック2009H1N1は09/10シーズンに解析を行った。最高体温以外の症状は診断確定時の症状の出現率。筋肉痛などは各群の症状の出現率に有意差があった。全体に、パンデミック2009H1N1の症状は比較的軽く、H3N2(A香港型)の症状は重い傾向が示されている。

 同研究班は07/08シーズン以降の3シーズン、H1N1(Aソ連型またはパンデミック2009H1N1)感染が確定した患者について、オセルタミビル(商品名タミフル)またはザナミビル(リレンザ)の投与から解熱までの期間を比較(図1)。08/09シーズンは、オセルタミビル耐性の遺伝子変異を持つH1N1(Aソ連型)が流行し、小児を中心にザナミビル投与群に比べてオセルタミビル投与群で解熱期間が長引く傾向にあったが、昨シーズンは一転。パンデミック2009H1N1に対しては、オセルタミビルもザナミビルもよく効いていた。

 パンデミック2009H1N1に関しては、抗原性が変化した株や薬剤耐性遺伝子を持つ株が散発的に分離されたものの、それらの株の感染が広がる傾向は認められず、今のところパンデミック2009H1N1の抗原性や薬剤感受性は変わっていない。

  国内において、今年5月末までのパンデミック2009H1N1による死亡者数は199人。死亡数の定義などが国によって異なるものの、人口10万人当たりの死亡率は0.16となり、カナダの1.32、ドイツの0.31など、欧米と比べても際立って低かった。専門家は、医療機関へのアクセスのよさや抗インフルエンザ薬の早期からの積極投与が効いたためではないかと分析している。

図1

図1 H1N1症例における抗インフルエンザ薬投与から解熱までの期間(日本臨床内科医会による)
PCR法でH1N1感染が確定した患者を対象とした。オセルタミビル投与例では、タミフル耐性株が広がった08/09シーズンだけでなく、07/08シーズンと比べても、昨シーズンは解熱までの期間が有意に短かった。

 

2010.11.22 記事提供:日経メディカルオンライン