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受験の理科を制するのは「数感」である

 理数科と一口に言いますが、「理」と「数」は全く違います。数学が好きでも理科の嫌いな子、苦手な子はたくさんいます。なぜなら、数学は純粋な抽象の世界で、理科、特に化学や生物は、具体的な現実世界だからです。物理の場合は、まず現象から入っていき、次第に抽象的な法則、数式を学んでいく学問ですが、そもそもその現象が具体的にイメージできないと、そこから苦手意識、ひいては嫌悪感さえ起きてきます。化学や生物になると、まず現象そのもの(化学反応や光合成など)に興味が全く持てないと、苦手意識が生まれます。

灘高では、「高2まではあまり理科を教えない」
  わが子が理科が嫌いな子だったらどうしたらいいか?もし理科のどの分野でもいい、一つでも興味を抱くことがあれば、学習参考書などとせこいことを言わず、講談社のブルーバックスシリーズなど、いくらでもその筋のわかりやすく書かれた科学入門書があるので、それを買い与えるのも一法だと思います。また、例えば医学部の生物受験に必須の『生物図表』(浜島書店)をじーっと見つめている子だったら、それはそれで医学部行きの素質大いにありです。生物に関しては放っておいても得意になってくれるでしょう。

  灘高校の先生に聞くと「灘では高校2年生まではあまり理科を教えない。教えるとその魅力に憑かれてしまって、入試に必要な英、数といった『基礎学問』への修錬がおろそかになる。高校3年になってから理科に手をつけてもうちの生徒なら遅くはない。1年足らずのうちに他校生をごぼう抜きにできる」とのこと。「さすが灘は別格」と感じたものですが、「高2まではあまり理科を教えない」という教育方針は確かに一理あると思いました。

  上の息子が小学校4年の秋に、灘中学の説明会に親子連れ立って出かけたことがあります。入試担当の先生による学校説明の後、灘高OBの東大院生が白衣を着てなにやら重そうなバケツを提げて出てきました。「これは液体窒素です。ちょっと教授の目を盗んで研究室から失敬してきました」と言って笑わせた後、「今から、超低温状態において電流が恒常的に流れ続ける現象を実際に見てみます」と言って実験をスタートしました。

  大勢の灘中受験生の卵たちがこのOBの周りに殺到しました。私たち夫婦も興味を持って後ろから見ていると、電源もないのに豆電球に光が灯りました。OBの口上も巧みだったせいでしょう、「うわーっ」という子どもたちの喚声が聞こえました。

大歓声の理科実験に見向きしないわが息子
  ふと、後ろを振り返ると、わが息子はひたすら持ってきたゲーム機で遊んでいました。この時「こいつは理科好きの子には育たんな」と悟りました。案の定、灘中はおろか、受けた私立中学はすべて落ち、地元の公立中学に行かざるを得ませんでした。灘中など偏差値の高い関西の私立中学の理科の入試問題などは、興味もしくは素質がなくては高得点が望めない内容になっています。東大合格者の総人数ではトップではない灘高が、こと理IIIでは、2位以下を大きく引き離してトップであり続けているのもわかる気がします。

  さて、私の息子ですが、理科はともかくせめて算数、数学くらいはということで、小学校5年生の時に妻が、陰山英男先生の百ます計算の本を買ってきて、時間を測って朝10分間やらせることにしました。「昨日はここまでできたね、じゃあ今日は…」というふうに、ゲーム好き=バトル好きを利用しておだてながらやらせたところ、計算力だけはメキメキつきました。

  すると中学受験には間に合いませんでしたが、「ゆとり」でさらに薄っぺらな教育内容になった公立中学では数学がぶっちぎりでできるようになり、低レベルの数学には確固たる自信を持つようになりました。もちろん、本人はこれが低レベルの数学とは気づいていませんでしたが…。でもそれでいいと思いました。6年後に待ち受ける大学入試の理数もつまるところ、計算力の差で勝ち抜けることを知っていたからです。

  計算力がつくということは「数感」が冴えることを意味します。子どもの頃、そろばんのできる子は必ず勉強もよくできた、ということを思い出せばわかると思います。

そんなわが子が私立医大に合格
  さて、理数科目を整理しますと、物理は現象へのイメージ喚起力とそこから発せられる数字や記号を自在に操る能力、化学は暗記と類推と計算力(ほとんど比例計算ですが)、生物は生命現象全般に対するイメージ喚起力とやはり計算力が決め手です。計算力の向上を通じて数感が身につくと、理科問題では、解答までの時間が驚くほど短縮されます。これは昨今の大学入試の出題方式、出題傾向と合致した対策になります。

  ちなみに私の塾での10分の早朝テストでは、英語における単語、熟語、基本例文テストに加え、計算力の向上を目指す即答テストを数、理において課しています。何年かけて受験勉強しようとも、入試とは、せいぜい1科目1時間そこそこの時間で運命を決めてしまう苛酷な制度です。そこで勝ち抜くテクニックを考えることが入試対策なのですから。

  息子は中学受験で失敗したのでうちの塾には早めに入れました。学生講師の中でも「理科がもともと好きでなく得意でもなかったけれど、努力で京大や医学部に合格した学生たち」に指導してもらいました。“できないころの自分”を持っている人でなくては、できない子の気持ちはわからない、と単純に考えたからですが、これが的中しました。数学と物理を好きになり、なかなか得意にならない化学や英語のマイナスを何とか埋めてくれるようになり、最終的に私立医大に合格しました。

理数はイラスト・写真満載の参考書を選ぶ
  大学受験の参考書は、先生たちが、自身ができるきっかけになった参考書を薦めてくれたので全部それに従いました。色々ありましたが、すべてイラスト、写真が満載のものばかりでした。先生に憧れを持っていた息子は、先生の古い参考書に引かれていたラインが、自分の引いたのと同じところにあるのを見つけると、大変な喜びようでした。息子にしてみれば、「合格」への一里塚のような気分だったんだと思います。

  というわけで、理科の参考書選びの基準は、イラストや写真がふんだんに使われていて、苦手意識を少しでも和らげ、“現象”のイメージ作りを手助けにしてくれそうなものがいいということです。得意な子は専門書に近い、活字がぎっしり詰まった方が心地良いと思いますが、そういう子は、オヤジと対等に理科分野の話ができそうで、それはそれでとてもうらやましいです。

  理科の参考書選びに関してさらに付け加えるならば、自分の子が信頼する先生にすべてを任せて、できたら昼ご飯代ぐらい親が出してあげて、付き合ってもらうのが一番だと思います。現役大学生(医学部生)の先生に影響を与えたかつての恩師が勧めた本、あるいは恩師の先生自身が書いた本を選んでくれるのではないでしょうか。

  子どもにとってみれば、親は付き添わなくても、親によって信任された若手の先生が付き添ってくれれば、そこに親の影を感じるものです。子どもからすれば、それこそ親と適度な距離を保てて加齢臭も嗅がずにすみますし(笑)。

  最後に、うちの塾で使っている参考書を列挙しておきましょう。物理は『名問の森物理』(河合出版)、『新体系物理』(教学社)。化学は「解説が詳しい頻出重要問題集化学I・II」(旺文社)、「チョイス新標準問題集化学I・II」(河合出版)。生物は前出の『生物図表』(浜島書店)を必須とし、『理系標準問題集生物』(駿台文庫)、「実力強化問題集生物I・II」(文英堂)を勧めています。

  私事になりますが、このたび『年収600万、子どもの偏差値40以上なら、医学部に入れなさい』(講談社刊)に続き、医学部シリーズ第2弾『子どもを医学部に合格させる父親はこうやっている』(講談社刊)を上梓しました。こちらも、ご愛読のほどをよろしくお願い申し上げます。

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松原好之(医系予備校「進学塾ビッグバン」主宰者)●まつばら よしゆき氏。1978年大阪外国語大学卒。96年進学塾ビッグバン開校。近著に「年収600万、子どもの偏差値40以上なら、医学部に入れなさい」(講談社)がある。

2010.12.13 記事提供:日経メディカル