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質を求めて保険外診療へ

「銀歯だった奥歯1本を白くするのに、15万円ほどかかったけれど、歯は一生つきあっていくものだから、相応の値段だとおもっています」
東京都港区虎ノ門の高村歯科医院で治療した東京都江東区の会社員、田川勝さん(29)=仮名=はこう話す。

田川さんの治療法は、虫歯などで崩壊した歯を見た目に配慮しながら再建する差し歯の一種で「メタルボンド」と呼ばれる。保険診療で使うプラスチック素材の代わりに、この治療法ではセラミックを使用する。口になじむうえに耐久性があり、見た目にも天然の歯とほとんど変わらないからだ。

だが、メタルボンドを選択すると、診療の一部で保険がきかなくなる。このため、保険なら7千円程度(3割負担)で済む窓口負担額が一気に跳ね上がる。材料が高価なうえ、保険外の場合は医療機関が自由に価格を決めることができるからだ。

東京医科歯科大学の寺岡教授が平成12年におこなった開業歯科医へのアンケートによると、メタルボンドにした場合の、患者負担額は平均8万円。最高は20万円、最低は1万2千円と大きな差があった。5万円未満のケースは「原価割れしているのでは」とみられる異例のケースだが、高い設定ができるのは需要がある証拠ともいえる。

その一例が田川さんを治療した高村歯科医院だ。同医院のメタルボンド1本の値段は平均の倍近く、保険診療と比べると負担額は20倍以上になる。
それでも、高村歯科医院を訪れる患者は保険外診療を希望するひとが多いという。

安い治療費では粗診になり、精度の低い診療になるのではないか。耐久性のない素材を使えば、、短時間で再治療せざるをえなくなり、度重なる再治療で歯を失ってしまうのではないかー。
そう考える「保険診療に不満をもつ患者も多い」という。

高村理事長自身、「日本の保険診療で認められている材料の多くは、欧米ではアレルギーを起こしかねないため使われない安価な材料で、口へのなじみ具合、精度、耐久性に乏しい」と明言する。

同院の収入に占める保険外診療の割合は7割。3,40代の会社員でも保険外診療を希望するひとは「一通りの治療で100万程度をかける」という。

平成18年度の診療報酬改定では、医療費抑制の観点から「保険免責制度」が検討された。
風邪などで医療機関にかかった場合に例えば3千円程度までは、患者の全額負担にしようというもので、混合診療の一種だ。導入は見送られたが、混合診療は医療費抑制策の一つで、今後も論議が拡大するのは必至だ。

だが、それは喜べることなのだろうか。
メタルボンドの患者負担額を調査した寺岡教授は「調査した平成12年ごろは、ある程度の混合治療はかまわないと思っていた。しかし、今は違う。メタルボンドを保険適用にするかどうかは別だが、所得格差が明らかに広がる中、今以上に混合治療の対象が広がれば、歯の健康を害する人たちは確実に増える」と警告している。

(2006.2.14 産経新聞)