White Family dental-site



[歯の衛生週間]

(上)乳幼児虫歯 ワースト常連

 「祖父母が菓子」一因か

 「鹿児島は虫歯のワースト常連」--。県内で配布される虫歯予防の啓発チラシや冊子には、こんな不名誉なフレーズが記されている。特に虫歯の乳幼児が多いのが鹿児島の特徴だ。

 県の統計によると、県内の虫歯になった乳幼児の割合を示す「有病者率」は2009年度、1歳6か月児が4・12%(全国平均2・52%)で、全国で低い方から46位、3歳児が29・85%(同22・95%)で同34位。1985年度以降、ずっと全国平均より悪く、歯の健康は県にとって長年の課題だ。

 なぜ虫歯が多いのか。県内の複数の歯科医は「孫に甘い祖父母」の影響を口にする。

 県内でも特に虫歯が多いのは郡部や離島。虫歯のある3歳児の割合が県平均より約8ポイント高い西之表保健所管内の西之表市健康保険課によると、「孫をかわいがる祖父母が菓子を多く与えてしまう」という母親からの相談が多く、県平均より約15ポイント高い屋久島町でも同様の相談があるという。

 社団法人かごしま口腔(こうくう)保健協会(鹿児島市)が03年度に実施したアンケート調査で、虫歯予防への祖父母の理解が不足している場合、孫に虫歯が多い傾向が出たこともあるという。

 「家族の絆が強く、祖父母が子育てに関わる頻度が高いことが、乳幼児の虫歯の一因ではないか」。歯科医らは推測する。

 鹿児島市歯科医師会で子どもの虫歯対策を担当する歯科医・浜坂卓郎さんは、「高齢者を含め県民の予防意識が長年低かったことが、現在まで響いているのではないか」と指摘する。

 そんな中、少しずつだが改善も進みつつある。かつて全国平均との差が20ポイント以上あった3歳児の数値も、09年度は約7ポイント差にまで縮小した。

 「各地で予防教育が進んだ成果」。浜坂さんが胸をはるように、汚名返上に向けた行政、医療機関などによる啓発活動が年々活発化している。

   ◇
  全国有数の「虫歯県」の鹿児島。歯の衛生週間(4-10日)に合わせて、虫歯予防など口内の“健口”について改めて考える。


(中)虫歯の母子感染に注意。お母さんの歯周病菌がl危険

関心今ひとつ、啓発活動に力

 「虫歯は母親の口から子どもに感染する」--。鹿児島市内の産婦人科で毎月開かれている妊婦や乳児の母親らを対象とした虫歯予防の勉強会で、歯科医の講義を聞いた母親の何人かは「知らなかった」と驚き、不安げな表情を浮かべる。

 かごしま口腔(こうくう)保健協会発行の「むし歯予防事典」によると、乳幼児の虫歯は母親から感染するケースがある。食べ物を母親が口移しで与えたり、母親の箸やスプーンで食べさせたりすることが原因という。

 県歯科医師会学校歯科運営委員会副委員長の坪水良平さん(鹿児島市)は「子どもに感染させないためにも、出産前に早い段階で自分の虫歯を治し、出産後も口の中は清潔にしておくことが大切」と説く。

 80歳までに20本以上の歯を残すことを目標にした「8020運動」も、妊産婦を含めた乳幼児期からの啓発が重要になる。県は、あらゆる機会を捉えて運動を推進している。県の依頼を受けた運動推進員が町内会など各地の様々な会合で虫歯予防法などを説明しており、その回数は年間800回にも上る。

 市町村も歯科医師会などと連携し、育児相談や妊婦健診などで地道な啓発活動をしている。

 5月下旬に鹿児島市保健所に育児相談に訪れた鈴木茉美さん(28)は、11か月の長女への食事の与え方や歯磨きの方法を学んだ。「参考になった。1人で子育てしていると分からないことばかりなので、相談してよかった」と喜ぶ。

 4人の子どもを持つ主婦(36)も、妊婦健診で虫歯予防教育を受けて意識が高まった。「虫歯が発育に悪影響を及ぼすと聞き心配になった。ほかの病気と同様に考え、子どもたちを定期的に診てもらっている」と話した。

 ただ、子どもの虫歯への親の関心は高いとは言えない。鹿児島市が独自に導入している1歳児から就学前の幼児までの4種類の歯科健診の受診率は60〜70%台。坪水さんは「他の病気に比べ、虫歯への対応は遅れがち。乳児の虫歯を放置すれば永久歯の形成障害に結び付くこともあるので、定期健診などで予防を徹底してほしい」と呼びかけている。

 ■虫歯になるメカニズム 「むし歯予防事典」によると、食事をすると虫歯菌が作り出す酸によって歯の成分のカルシウムなどが溶けだす「脱灰」と、成分が元に戻る「再石灰化」を繰り返す。再石灰化には一定の時間がかかるため、間食を繰り返すと脱灰ばかりが進み、虫歯になる。県歯科医師会の坪水さんは「歯磨きに頼ってはいけない」と言う。就寝中は再石灰化を促す唾液の分泌が減るため、寝る直前の飲食を控えるよう助言している。

2011.06.06 記事提供:読売新聞