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妊婦に寄り添う歯科外来 口腔ケアで安心な出産を

妊婦に寄り添う歯科外来 口腔ケアで安心な出産を 
日歯大の取り組み1年  「医療新世紀」

 女性は妊娠すると、女性ホルモンの増加などにより歯周病にかかりやすくなる。歯周病は、早産や低体重児出産のリスクを高める可能性が指摘されている。安心して出産を迎えるために、口腔(こうくう)ケアはとても大切だが、治療への不安もあって妊婦の足は歯科医から遠のきがちだ。こんな状況を打開しようと、日本歯科大病院(東京)が大学病院初の「マタニティ歯科外来」を開設して1年あまり。全員女性のスタッフは、妊婦に寄り添い、母子の健康を守る取り組みを続けている。

▽つわりの影響

 妊娠20週の女性(34)は、歯肉の腫れや出血を気にして同外来を受診した。口の中を調べると、歯の表面全体の50%に歯垢(しこう)が付着し、歯磨きが不十分なことが分かった。歯石を除去し、歯磨きの方法を指導すると、3回の来院で歯肉の腫れも出血も収まった。

 妊娠18週の女性(29)は食事中、奥歯に違和感を覚えたが、ひどいつわりで外出もままならず、放置していた。次第に痛みが強くなり、夜も眠れなくなったため来院。エックス線で撮影すると、う蝕(虫歯)は神経にまで達していた。神経を抜く治療を施すと、女性は安眠を取り戻した。

 同外来責任者の児玉実穂(こだま・みほ)講師によると、女性の口内環境は妊娠で大きく変化する。まず、唾液が減少して口内が酸性に傾き、虫歯にかかりやすくなる。一方、つわりの影響で歯磨きが気持ち悪くなり、口内の清掃は不十分に。おなかが大きくなると1度にたくさん食べられないため食事回数が増え、口の中が汚れている時間も長くなる。

▽早産の可能性

 また、女性ホルモンの分泌が増えると、これを大好物とする歯周病菌が増殖して妊娠性歯肉炎が起きやすくなる。「歯周病菌や炎症性物質は、子宮収縮を促すプロスタグランジンなどの血中濃度を上昇させ、早産を起こす可能性がある。胎盤や子宮への歯周病菌の感染は、低体重児との関連が指摘されている」と児玉さんは説明する。

 それだけに口腔ケアは重要だが、薬や麻酔、エックス線が胎児に影響するのではないかと心配する妊婦は多い。一方で歯科医も、妊婦についての知識や情報の不足から、治療を敬遠する傾向があるという。

 同外来創設のきっかけをつくった田村文誉(たむら・ふみよ)准教授は「私自身、初診で紹介もない妊婦さんの治療には不安があった。しっかりと治療に臨むには体制づくりが必要。女性であり、歯科医師であることを生かして妊婦さんをサポートしたいと思った」と振り返る。賛同した女性の歯科医師や歯科衛生士が計23人集まり、昨年4月、同外来が正式にスタートした。

▽安定期を推奨

 妊婦に特別な治療があるわけではない。スタッフで口腔外科が専門の柳井智恵(やない・ちえ)講師は「妊娠16週以降の安定期の治療を勧めるが、治療内容は基本的に一般と同じ。安定期以外でも内容によっては治療可能」と話す。

 歯科用の局所麻酔や、きちんと防護した上でのエックス線撮影は胎児にはほとんど影響せず、痛み止めや化膿(かのう)止めの薬は比較的安全なものを必要最小限に処方すれば問題ない。治療の際は母子健康手帳を確認し、体調に気を配りながら、楽な姿勢で迅速に行うという。

 開設1年で受診した妊婦は103人。半数以上が安定期だったが、妊娠初期や後期の妊婦も含まれていた。中には出産後も引き続き、子連れで来院する人もいる。

 子どもの虫歯は多くの場合、母親からの虫歯菌感染が原因となる。「妊娠中から母親の口腔ケアを十分に行えば、生まれた赤ちゃんを虫歯から守ることにもつながる。歯科開業医の先生方とも連携しながら、妊婦さんが安心して治療を受けられる環境を整えていきたい」と児玉さんは意欲を示す。(共同)


2011.06.28 提供:共同通信社