White Family dental-site



医療ルネサンス 震災の現場から 6

 口内ケアで感染症予防


 避難所暮らしで気をつけなければならないのは、水や歯磨き粉不足から十分な歯磨きができず、口の中で細菌が繁殖してインフルエンザや肺炎、胃腸炎といった感染症を引き起こすことだ。

 岩手県山田町で避難所の一つとなった武道場は、震災直後から9日間にわたり断水した。この間、被災者には500ミリリットルのペットボトルが1日に1〜2本配られただけだった。町内で独り暮らしをしていた女性(79)は「歯磨きに飲み水を使うなんてもったいない。少し口に含んですすぐだけでした」と語る。顔を洗うのも雪を解かして湿らせたタオルで拭くだけだった。

 昭和大歯学部教授の高橋浩二さんは医療支援チームの一員として震災9日目から同町内に入り、6か所の避難所で「口内ケア」の大切さを訴えた。
 「自由に水が飲めず、歯磨きもやっていないと、口の中で細菌が繁殖しやすい。避難所生活では、栄養状態の悪化や睡眠不足、ストレスも重なり、感染症を引き起こします」

 高齢者にとって怖いのが「誤嚥性肺炎」だ。
 細菌の多い唾液や食べ物などが誤って気管に入って起こる。町立山田南小学校の避難所では震災から7日目、歯磨きを十分せず、誤嚥性肺炎をおこして病院に運び込まれた高齢者の男性がいた。

 水を節約した歯磨きのコツは、歯ブラシを歯の上で小刻みに動かすこと。水はブラシをぬらす程度でいい。口の中を刺激することで唾液が分泌される。唾液には一定の殺菌効果がある。磨き終わった後の唾液は必ずはき出す。

 入れ歯の手入れにも注意が必要だ。町立山田南小学校に避難している女性(70)は「周囲の目が気になり、入れ歯の汚れはティッシュで拭きとるだけにしていた」と打ち明ける。避難所ではプライベート空間が少ないことから、人前で入れ歯を外すことをためらい、装着したままという人も少なくない。

 就寝前には入れ歯を必ず外し、歯ブラシを細かく動かして磨く。入れ歯に熱湯を注ぐ人もいるが、変形して装着できなくなる恐れがあるのでやめる。

 誤嚥性防止のために、口の周りの筋肉を鍛える方法もある。「あ」「い」「う」と大きく口を開けて1日10回以上声を出したり、舌を前や左右に最低10秒突き出したりする。

高橋さんは「少しの工夫で口の中のケアは可能です。体調を保ちながら被災を乗り越えてほしい」と話す。

 

2011年3月30日 読売新聞