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健康保険制度がなかったなら アメリカに見る貧困大国

東京都医師会主催公開講座「健康保険制度がなかったなら」:歯科の話題も

3月25日、東京都医師会が主催する公開講座「健康保険制度がなかったなら」が、有楽町マリオンで開催された。講演「貧困大国アメリカにみる日本の近未来〜守る宝とは〜」堤未果氏(ジャーナリスト)、「日本の医療保険制度」中村秀一氏(内閣官房社会保障改革担当室長)、ディスカッション「ちゃんと知りたい 誰も教えてくれなかった国民皆保険のこと」が、田村あゆち氏(フリーアナンサー)の司会で、野中博氏(東京都医師会会長)、中村氏、ジェフ・バーグランド氏(京都外語大学大学院教授)、長嶺陽平氏(杏林大学医学部5年生)で行われた。

講演に先立ち、野中会長が、アメリカの医療制度の問題点を指摘したマイケル・ムーア監督映画「シッコ」を例に出し、「アメリカの医療制度に国民皆保険制度がなく、民間の医療保険に入れない人がおよそ5000万人いて、日本ではわからない問題を抱えています。改めて日本の国民皆保険制度の素晴らしさを再認識しています」とした上で、「国民皆保険制度が実施されて50年が経過しました。この制度、病気を抱えても誰でもが安心して医療を受ける事を保障しています。国民が皆助け合う仕組みとして世界に誇るべき我が国の制度です。今回、この国民皆保険制度について、都民公開講座で都民の皆様と語り合いたいと思います。そして、国民皆保険制度の仕組み、平等性、利便性などを改めて確認していただき、国民皆保険制度を保持する意義を理解してほしいと思います」と挨拶した。

まず、ジャーナリストの堤氏は、自らのアメリカでの生活体験、あるいは自著『ルポ貧困大国アメリカ』でも紹介している、アメリカの実態を数字で示した。特に、差し押さえ、生活保護、医療破産などを数字で紹介しながら、「いのち、暮らし、教育といった人間の根幹が『市場化』されたとき、一体どうなるのか、私たちは考えるべきです。いずれも、負の状態の原因は、格差拡大の悪循環によるものですが、その影響は看過できない状況になっています」と強調した。さらに、他の具体的な事例を報告したが、「基本的には、政治への無関心が一つの遠因でもある。やはり、政府の政策を監視する必要がある。日米の生活を通して、日本の国民皆保険制度は、日本の知恵とも言えるもので"宝"です。日本人もこの制度を本当に理解してほしいもので、政治に関心を持つべきです」と国民皆保険制度への維持・確保を訴えた。

続く、中村氏は、1951年に施行した国民皆保険制度の理念について"いつでも、どこでも、だれでも、保険証1枚で医療が受けられる"というもの。政府が国民に責任をもって医療を提供していくということです。その後、様々な制度改革をして今日まで来ました」と改革の当事者ならではの苦心した事例を交えて説明した。現在、担当している"話題の社会保障と税一体改革"にも言及したが、「国会でも議論になっている年金ですが、世間で騒がれていますが、対応できるように設計されていまので、少なくとも60歳以上の方々は大丈夫。また、資源配分の割合も、年金5:医療3:介護2から、年金5:医療2:介護3へとシフトします」とし十分な対応をいくと述べた。

最後の、ジェフ氏は40年以上の日本生活からの独特な話が聞かれた。「日本に来て、最初に学んだのが、日本人が身につけている相手の気持ち察することです。言葉にしなくても、相手はわかるのですね。本当に不思議でした。また、曖昧なところも良く議論されますが、良いこともあるのですね。これも学びました」と日本の文化を評価していた。

こうした背景を踏まえながら「先ほどから、アメリカの医療制度の悪い点を言われて、アメリカ人としては複雑な気持ちになりますが、でも、やはり日本の皆保険制度は素晴らしい制度です。保険証1枚で医療が受けられることは、凄いことなのです。日本人はもっと理解し、お医者さんや医療関係者に感謝しなくは、バチがあたりますよ」とユーモアを交えて話し、会場の笑を誘った。

日米の医療の違いの話になった時に、アメリカで歯科治療を受けた時の様子を、身振り手振りを交えて、「虫歯で歯科医院に行ったら、一度に何本も抜かれたのでビックリ。エッ、どうして?と思った記憶があります」と話すと、司会の田村氏も「そうです。私がアメリカで歯科を受けた時ですが、一度に4本の歯を抜かれました。本当に、一気に治療をしてしまうのですね」と呼応して発言をした。

これにお関連して、ジェフ氏は、「アメリカは効率を考えるのですね。日本なら、表現はよくないのですが、チマチマして、少し治療してまた次に治療。また少し治療してという進め方ですからね。患者に負担をかけない治療なのです」と違いを説明したが、会場からは、驚きを示すようなため息もあったほどであった。田村氏も「日本の歯科医師の先生は、丁寧に治療してくれます」と付言した。

長嶺氏は学生の立場として発言。「凄い人の中で、何を話していいのかわかりません。大学では、医療計学生サークル"MEDICUSを創設"しました。医療に関わる人たちで意見・情報交換をしています。医師一人で治療をしているのではないことを自覚しなくてはいけないと思っています」と述べる中で、「本日のこの時間は、医師になる上で、本当に貴重な体験になっています。私達学生は、保険証のことは意識してないで授業を受けています。改めて国民皆保険制度の良さを知りました。帰宅したら保険証を見てみようと思います」と苦笑いしながら述べていた。

野中氏は、在宅医療・訪問診療の第一人者の経験者として「今回、国民皆保険制度を取り上げた一つの理由は、昨年の東日本大震災では、多くの犠牲者を出しました。特に医療関係者としては、今でも医療を待っている人、辛い思いをしている人が多くいること。日本医師会としても、十分ではないが、最善を尽して対応してところだと思います。やはり、ここでも痛感するのが国民皆保険制度です。TPPの問題で、クローズアップされますが、この制度を崩してはダメです。守っていかなくてはダメです」と時に、涙ぐみながら訴えていた。

なお、会場には1600名の申し込みから抽選で選ばれた800名が参加し、熱心にメモを取るなり、話にうなずく姿などが目につく会場でもあった。

取材; 奥村 勝 氏
オクネット代表。明治大学政経学部卒業後、一般企業に就職。さらに東京歯科技工専門学校を経て歯科医院、歯科技工所に勤務。さらに日本歯科新聞社編集部記者、雑誌「アポロニア」(日本歯科新聞社)編集長、新聞「Dental Today」(医学情報社)編集長を歴任…

2012年4月8日 提供:DentWave.com