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歯科心身医学会学術大会:咬合違和感の実態に迫る 
咬合違和感の解決できない現状

日本歯科心身医学会学術大会:
シンポ「咬合違和感の実態に迫る」に大きな示唆

第27回日本歯科心身医学会学術大会

 第27回日本歯科心身医学会学術大会が9月1〜2日、川越東武ホテルで開催されたが、2日に開かれたシンポジウム「咬合違和感の実態に迫る」は、日常診療で多くの散見される臨床現場での課題をクローズアップし、今後の歯科医療に大きな示唆を与えた。玉置勝司・神歯大顎口腔機能修復科学教授、小見山道・日大松戸歯学部顎口腔機能治療学教授、尾口仁志・鶴見大学歯学部高齢者歯科学准教授、佐藤佑介・東医歯大大学院摂食機能回復学助教がそれぞれの立場から研究報告をした。要旨を紹介する。

冒頭、座長を兼ねた玉置神歯大教授は、多くの臨床症例から、「 咬み合わせに関する異常感や違和感を訴えるが、それに対応する客観的所見を確認できないような症例の存在がある」と事実を紹介。具体的な事例を報告しながら、患者の主訴を聞き入れる姿勢は、「まさに、患者の感覚主導型の治療に陥ってしまうのである。その結果、患者の症状は改善するばかりか、さらに悪化してしまうこともあり、歯科医師も混乱してしまう」とした。

こうした事情を踏まえて、神歯大では、 かみ合わせ外来(2001 年開設)時から、現在の 咬み合わせリエゾン診療科(2007 年以降)において、あらゆる咬合違和感を訴える患者を多数経験しており、「咬合違和感を訴える患者の症状の本質は画一的なものではなく、種々の要因が関与した複雑な病態である」と捉えている。また、近年の脳機能の検査手法の発達により、末梢からの入力信号が脳血流量に及ぼす影響から" 咬合違和感" という咬合感覚を客観的に視覚的に評価する手法の可能性についても言及した。

一方、小見山教授は「数年にわたって患者が補綴装置の咬合による体の不調を訴えるなど、臨床的な技術論では全く改善できない症例があることも事実である。こうした症例があると、歯科医師にとって普段の臨床に大きな精神的影響を与えることは否定できない」と指摘し、その対応についても「このとき心身医学や精神疾患の知識を持っているかどうかで、対応には大きな差が生じる。この点をしっかり理解すべき」とした。

また、臨床現場での調査から「残念ながら、過去に顎関節症の咬合治療が全盛だった頃、教育を受けた年代の歯科医師にとっては、顎関節の炎症による見かけの咬合不調和は自然治癒する可能性があり、経過観察が必要などということは、全く考えられない選択肢なのかもしれない」と具体的に指摘、今後の課題としている。「やはり多種多様な咬合違和感患者を病態別に整理することが最優先と考えられる。そこで、顎関節の炎症などの器質疾患に伴う咬合不調和を原因とする咬合違和感と、その対極にある心気症などの精神疾患による咬合違和感に関して、それらを整理して包括的対応を検討すべき時期に来ている」と問題提起した。

歯科医師側の課題の観点から指摘した尾口鶴見大学歯学部准教授は、海外からの論文を紹介しながら、「歯科特有の疾患または症候群と精神科的疾患との関わり方を我々歯科医側にも問題があり、患者の精神状態を無視した補綴治療は患者さんにさらに新しい環境を口腔内にもたらすものであり、精神状態の悪化を招き、結果として正しい咬合の判断さえ出来なくなる」と歯科医師の問題にも言及した。

「1996 年本学に高齢者歯科学講座が開設されて以来、私自身が担当した咬合違和感61 症例に対して心身医学的アプロ?チを行った結果、精神科などへの紹介も含め38 例(62%)に対応できたが、20 例(33%)に対しては全く対応ができなかった」と課題がある事例を紹介し、改めて関係者に問題意識を喚起した。

 最後の佐藤・東医歯大学大学院助教は、自分自身の臨床・研究を通じて「義歯外来には、いくら咬合調整しても咬めない、違和感がある、咬み合わせのせいで全身の状態がおかしい、と執拗に訴える患者が常にある程度の患者数は存在します。当然ながら、様々な術式を駆使しながらも、望ましい結果を得ることができなかったこともあった」と報告。「メンテナンスに訪れては微妙な咬合調整を行い、満足して帰っていく患者もいましたが、それが補綴学的に説明のつく治療であったかという疑問もあった。そんな中、卒後7年目に半ば偶然に近い経緯で、頭頚部診療外来(現歯科心身医療外来)で診療に従事する機会を得、システマティックに検査、診断を行い、投薬治療中心に寛解までのフォローを行う外来診療は、それまで従事してきた補綴診療とは全くの別世界で、驚くこと学ぶことの多い日々であった」と咬合違和感に対して、アプローチを新しく学んだことの意義を強調していた。

 高齢者・持病を有する患者の歯科受診増加が予想される時代背景の中で、歯科医療提供側の歯科的要素と医科的(精神科)要素による問題意識が求められている。特に患者の"咬合違和感"は、臨床家・歯科医師の多くが経験することであり、今後の研究に一石を投じたシンポジウムになったといえる。

(奥村 勝)

2012年9月6日