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東京地裁:被告東医歯大の"EBAセメント"を巡る歯科裁判

5月29日、東京地方裁判所で原告・佐藤美砂子、被告・東医歯大とする歯科治療を巡る損害賠償請求の裁判が行なわれた。原告の佐藤氏、被告の立場である東医歯大の歯科診療した歯科医師ら3名に対して各主尋問、反対尋問が行なわれた。平成16年に受けた診療内容を問題としているものである。ポイント要旨を紹介する。

原告の佐藤氏は、化学物質過敏の体質を有しているアレルギー患者であり、東医歯大での歯科治療を受けたが、その治療によって化学物質過敏症を惹起し、精神的・肉体的苦痛を受けたと主張した。そもそもアレルギー外来にて、歯科材料が原因または誘発物質になっていると思われる様々な疾患について、その疾患との因果関係を各種検査などの検査外来を受けた。治療の必要が認められた右上4番を同大の虫歯外来で治療をした。
そこでの治療(EBAセメントによる処置)などによって、鼻炎 <http://ja.wikipedia.org/wiki/鼻炎>、頭痛 <http://ja.wikipedia.org/wiki/頭痛>、
疲労 <http://ja.wikipedia.org/wiki/疲労>感などの症状を呈したという(その後は、左上5番も治療)。

まず、原告佐藤氏が証言した。弁護人から診療時の話を聞かれ、「まず、アレルギー外来にて検査をしたが、治療の必要があるとして、むし歯外来に回され、右上4番を治療したのですが、治療後に体の不調を覚えました」と述べ、さらに「診療にあたりパッチテストをしてほしい旨を要望しても受け入れてもらえなかった」と不満を示していた。そこで、「痛みなどの不具合・不調があったのであれば、なぜ担当歯科医に言わなかったのですか」と質問されると、「先生から、"しばらくは痛みが続くかもしれません"と言われていたもので、こんなものかなと思っていましたので、言えませ
んでした」と患者の胸の内を吐露。「その後はどうしましたか」と続けて原告弁護人から質問されると「数週間しても治まらないので、材料に問題があると思い、"材料を代えて下さい"と申し出ましたが、ダメでした」と不満を述べ、歯科材料が体調不良を起こした原因だとして、診療側に訴えていた。

これに対して、最初に診療したK歯科医師は「佐藤氏の体質に対応可能で、治療効果が求められるセメントは、現在のところEBAセメントしかないので使用。"どうしてもというのであれば、日本では未承認のMTAセメントがあるが、自分で個人輸入して下さい"と説明した」と証言をした。結果として、佐藤氏が個人輸入してMTA材料を入手した。他の歯科医師は「この使用は、大学内としても問題なるとの懸念もあったが、敢えて使用した」と臨床現場として、止むを得ない選択であったと釈明する場面もあった。

なお、佐藤氏は、証言の中で「"私の診療に従えないなら、そでもいい!"、"予約の時間にちゃんと来て下さい!"と怒鳴られたりしました。スタッフからも"なぜ、佐藤さんにあんなに当たるのですかね"と言われました。また、"佐藤さん、どうしてもというのなら、歯科医師を代えるように要望してみてはどうですか"と助言をいただきました」などと証言。このように、原告佐藤氏がK歯科医師に対して、診療を巡る対応などから不信を募らせ、担当歯科医師の交代を要望していたことも明らかにされた。

一方、パッチテストの実施については、被告側歯科医師は「アレルギー外来から回ってきた患者でしたので、必要があれば、実施しているはず。申し送りがないことから、必要がないと判断されたものだと理解・判断した」と経緯を含め証言したが、原告弁護人から「担当医は誰なのですか。その担当医から、それぞれ診療した歯科医師に申し送り・確認はしていないのですか。パッチテストをしない理由とか。カルテだけを見ての引き継ぎなのですか」と詰問されると、歯科医師は「担当医は把握していると思うのですが」と、特別に問題視されることはないという趣旨の姿勢をもって証言して
いた。

しかし、佐藤氏は他の診療機関・皮膚科でパッチテストを行い、パッチテストの結果は陽性を得たことで、EBAセメントとの関係を認めることを被告東医歯大に迫ったが、被告側弁護人は、「パッチテストの方法には、2日や3日、或いは7後の評価があります。2日評価で陽性であっても、7日評価で陰性になることは普通であり、皮膚科でのパッチテストの結果をもって断定するのは難しい」と反論した。

そのほか、「セメンティングを行う際に液と粉の錬和」についても、蒸留水と生理食塩水で錬和した際の相違・その体内への影響等も議論されたが、これに対して、被告側証人に立った女性歯科医師は、この分野の研究をしていた経歴の持ち主で、国内外への論文投稿から「この類の多くの論文を読破したが、生理食塩水でも蒸留水でも相違は確認されなかった」と専門研究者としてその理由を示し、原告側の主張を否定した。
今回の証人尋問で、アレルギー患者と診療の在り方、患者申し送りと歯科医師の情報の共有化、患者視点から主治医・担当医・診療医の不明瞭などがクローズアップされた。

なお、廣谷幸雄裁判長は、「本日で裁判は結審しました。判決は8月22日にします。ただ、どうでしょう。原告・被告も判決を見据えているでしょうが、裁判所としては、和解という選択もあるあるかとも思っています。よく検討しておいて下さい」と和解勧告に含みを持たした発言があった。

裁判後に原告側の中下裕子弁護士(コスモス法律事務所)は、オクネットの「和解ですか」との質問に「それは、ノーコメントです。でも随分いろいろな歯科医師の先生が診療するのですね。誰が誰だがわからなくなりますね」と苦笑いした返答をしていた。

2013年6月6日 提供:奥村 勝 氏