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水銀による環境汚染や健康被害を減らし、水銀使用の廃絶を目指す
「水銀に関する水俣条約」が熊本市での会議で採択

水俣病の根本解決を 水銀汚染「水銀条約」

 世界的に深刻化している水銀による環境汚染や健康被害を減らし、水銀使用の廃絶を目指す「水銀に関する水俣条約」が熊本市での会議で採択された。条約の名前には、日本最悪の公害病である水俣病の悲劇を繰り返すことがないようにとの願いが込められている。

 安倍晋三首相は会議へのビデオメッセージの中で「水銀による被害とその克服を経たわれわれ」と発言した。水俣病が過去のものであるかのような発言は明らかな事実誤認で、受け入れられるものではない。

 名付け親となった日本には、水俣の悲劇に正面から向き合い、真の解決を実現することが求められている。首相をはじめとするすべての政策担当者は、水俣病の完全解決なしに、世界に水俣の教訓を示すことなどできないということを心に刻むべきだ。

 水銀による環境汚染や健康被害は、多くの発展途上国で深刻化しつつある。国際的な取り組みで被害の拡大と新たな汚染の発生を防ごうと採択されたのが水俣条約だ。

 大きな発生源は、零細な金採鉱で使われる水銀で、条約の目的を達成するには、この分野の対策が重要となる。零細金採鉱での水銀使用を禁止すべきだとの意見もあったが、途上国などからの反対意見もあり「水銀の使用や環境中への放出を削減し、可能であれば廃絶のため行動する」との文言にとどまった。

 零細金採鉱での水銀使用廃絶のための技術的、資金的支援だけでなく、その背景にある途上国の貧困削減対策も重要になる。日本の途上国支援の充実が急務だ。

 国内的に何より重要なのは水俣病の全面解決だ。最大の問題は1977年に当時の環境庁が定めた水俣病の診断基準にある。四肢末端の感覚障害に加えそのほかの症状があることを原則とする基準は、決定の経緯が不透明な上、多くの専門家から疑義が呈されている。

 4月の最高裁判決でも「感覚障害だけの患者がいないという科学的実証はない」と指摘された。にもかかわらず国は古い診断基準にこだわり続けている。

 本来、被害者救済の中核となるべき公害健康被害補償法の枠組みとは別に、95年の「最終解決策」なる政治決着と、2009年の特別措置法と2度にわたって未認定患者の「救済」を進め、事態を複雑化させた。

 公式確認から半世紀以上を経ても、被害を受けた可能性がある住民をカバーする健康調査は行われていない。環境保護団体や専門家の中には、水俣湾に埋め立てられた150万立方メートルもの水銀を含む汚泥が災害時などに環境中に漏れ出す懸念を示し、無害化対策を求める声も強い。

 日本が水俣病を「克服した」と言うには程遠い状況にあることは明白だ。首相は、安易な言葉遣いによって被害者の心を傷つけたことを反省し、水俣病の全面解決に向けたリーダーシップを示すべきだ。(共同通信編集委員 井田徹治)

2013年10月17日 提供:共同通信社