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清潔入れ歯で生活の質向上

 高齢化社会の到来で、入れ歯(義歯)を使う日本人が増え続けている。製薬会社のグラクソ・スミスクライン社の推計によると、2011年には3000万人近くに達したとも。専門家は「入れ歯といえども自分の歯。正しい方法でこまめに手入れを」と訴える。

 ●自分の歯と同じ

 「かみ合わせは大丈夫でした」

 10月17日、東京都千代田区のオフィス街にある歯科。月に1度の「入れ歯点検」を終えた男性(70)は、歯科医の言葉にホッとした表情を浮かべた。

 男性は「入れ歯歴」20年。虫歯などのため、上は総入れ歯、下は部分入れ歯だ。毎食後には時間をかけて、残っている自分の歯と入れ歯を手入れすることを欠かさない。「おかげで調子はいいです」と笑う。

 日本顎咬合(がくこうごう)学会常任理事の久保田智也歯科医師は「奥歯が1本欠けただけで、食べ物をかみ砕く咀嚼(そしゃく)効率が6割くらいに落ちる。歯がないと、咀嚼や、食べ物をのみ下す嚥下(えんげ)、発音などの機能に影響が出る」と指摘する。その悪影響を防ぐ役割を担うのが、入れ歯だ。

 だから「入れ歯は自分の歯と同じ」。東京都歯科医師会の腰原偉旦(こしはらひであき)副会長は強調する。自分の歯と同じように、正しい使い方、手入れの仕方を身につけることが大切だ。

 ●毎食後手入れを

 腰原さんらによると、入れ歯を使う際は、きっちり指を使って定位置にはめる。慣れている人ほど、口の動きでかむだけでセットしようとするが、装着すべき位置からずれてしまうことも多いので「汚いと思わずに、自分の指で定位置にはめてほしい」という。

 食事の後は、毎回きちんとお手入れすることを忘れずに。入れ歯をはめたまま磨くのではなく、必ず外して、自分の歯と入れ歯を別々に掃除することが大切だ。

 掃除する時は、水道水を流しながら磨く。研磨剤の入った歯磨き粉は使わない。入れ歯を傷つけ、そこに細菌が入り込むからだ。ブラシも入れ歯用の柔らかいものを使う。

 部分入れ歯は、残っている歯と接する部分に汚れがつきやすいので、きっちり磨く必要がある。ブラシで磨きにくい部分には、綿棒を使うのも有効だ。

 お手入れの間は、スポンジや水を張ったボウルなどを下に置いておく。入れ歯を落として割ったり、バネを変形させたりしないためだ。熱湯での消毒は、変形や脱色などの原因になるので、絶対にやめるべきだという。

 ●1日6時間は外す

 「入れ歯は、1日のうち6〜8時間は外しておきましょう」(久保田さん)。一日中つけたままだと、歯茎の血行が悪くなったりするためだ。

 寝る時は基本的には外せばいいが、外したまま眠った場合、残っている歯で歯茎を傷つけてしまうことがあるし、あごが疲れる人もいる。十分に掃除をすれば、個人の事情に応じて装着したまま寝てもいい。ただ、テレビを見ている間は外すなど、「入れ歯を入れない時間」を確保することが大切だ。外した入れ歯は洗浄液につけておく。液は毎日取り換えよう。入れ歯の材質によって、必要な洗浄剤は異なる。使い方については歯科医とよく相談を。

 ●全身の健康に影響

 入れ歯の歴史は意外と古い。日本大松戸歯学部の河相安彦教授によると、1789年に就任した米国の初代大統領・ワシントンも入れ歯だった。日本でも江戸時代には既に、木製の入れ歯が独自に発達していたという。

 河相さんによると、不適切な入れ歯の手入れで口内の状態が悪化すれば、誤嚥性肺炎を引き起こすなど全身の健康状態に影響することも、近年明らかになっている。また、歯を失って機能が落ちると、外出を控えるなど生活の質が下がる、という研究報告もある。

 入れ歯が「生活の質を上げる」役割を持つことは重要だ。河相さんは「いくつになっても、入れ歯をはじめお口の中の状態に気を配ってほしい」と話している。【江口一】

2013年10月30日 提供:毎日新聞社