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患者が「最も嫌がる言葉」
「患者中心の医療」は古い。今は患者も医療チームの一員だ。


患者が「最も嫌がる言葉」 【研修最前線】

東京医科歯科大学2013年研修医セミナー第17週「緩和医療の“今”」−Vol.6

「患者中心の医療」は古い。今は患者も医療チームの一員だ。
使う言葉が非常に重要になっている。つい「死語」を使っていませんか。
東京医科歯科大学腫瘍センター長、三宅智氏が解説。
まとめ:山田留奈(m3.com編集部)

■ アドバンス・ケア・プランニング

東京医科歯科大学腫瘍センター長 三宅智氏 「アドバンス・ケア・プランニング」という言葉があります。患者や家族が今後どういうケアや治療を受けていきたいかということを、あらかじめ皆で相談していくことです。さらに「アドバンス・ディレクティブ」という概念もあります。事前の意思、つまり自分の具合が悪くなった時に蘇生をしないでほしい、意思の代理表示を誰にしてほしいといったことをあらかじめ話し合って、できれば文書化しておくことです。日本ではまだ法定的な文書はありません。

 以前は「DNR」(Do Not Resuscitate、蘇生しない)という言葉を用いていましたが、最近では「DNAR」(Do Not Attempt Resuscitate、蘇生する試みをしない)という言い方に変わっています。通常、蘇生する試みとしては、心臓マッサージ、気管内挿管、人工呼吸器の装着が含まれます。最近では昇圧剤投与もここに含めることが多くなっています。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)
アドバンス・ディレクティブ
DNARオーダー

■ 上から目線の言葉は死語に

 アドバンス・ケア・プランニングでは、数々の重要事項について話し合うので「患者に対する言葉」が非常に重要です。一時、「患者様」という言い方をした時期もありますが、最近はだんだん廃れてきました。また、「啓蒙」は馬鹿にしたような感じがするので、「啓発」となりました。さらに、昔は薬をちゃんと飲まない人を「コンプライアンスが悪い」と言いましたが、上から目線なので「アドヒアレンス」になり、最近は「コンコーダンス」と使おうという人もいます。

 昔は、医師以外の医療従事者を「パラメディカル」と言いました。最近では、看護師は「メディカル」、薬剤師その他の職種の人は「コ・メディカル」という言い方をします。しかし、コ・メディカルという英語はありません。英語圏では、すべての医療従事者をひっくるめて「ヘルスケアプロフェッショナル」とか「メディカルスタッフ」などと呼ぶようです。

 今でも「ムンテラ」と言っている人は多くいます。語源となったドイツ語の「ムント・テラピー」(口で治療する)という言い方はあまり好ましくないということで、最近は「インフォームド・コンセント」と言います。これも、コンセントがいいのか、チョイスか、コンセンサスか、様々な考え方があります。

 患者は良い側面を見たいので、死亡率よりも生存率を知りたいと思います。結局、同じことを言っているのですが、やはり希望を失いたくないと考えるのでしょう。患者が言われたら一番嫌なのは「もう何もすることがない」という言葉です。薬の治療がなくなっても、話を聞くことはできるし、一緒に体調を整えることはできます。

 最近ではコミュニケーションも一つのスキルだという観点で、サイコオンコロジー学会が2日間の研修会を主催しています。日本の実情に則した「SHARE」というプログラムが行われています。

■ 医療にとって「死」とは何か

 従来は、患者や家族が中心にいて、周りからチームで支えているというチーム医療の図が提唱されていました(左の図)。最近では、患者・家族も外の輪に入れるという考え方が出てきました。実際に症状が一番分かっている専門家は患者本人ということで、「コンコーダンス・モデル」と呼ばれています(右の図)。日本語では「調和」という意味で、患者や家族もチームの一員となって、皆で同じ方向・目標を目指すというものです。

従来の「患者中心の医療」
新しい「コンコーダンス・モデル」

 今後、緩和ケア、終末期医療に関わる上で考えないといけないのは、「人間にとって医療とは何か」ということです。非常に根源的な問題ですが、「医療は本当に良いことなのか」ということも含めて考えていかないといけないのかもしれません。

 さらに考えなければならないのは、「人間にとって死とは何か」ということです。死ぬということはどういう意味があるのか。医療にとって「死」とは何か。現在、死ぬということに対する教育はほとんどされていません。しかし今後は、死はどんどん増えていくのです。

 死が悪いことであるという考えのもとで、死を持て余し、臨床の現場では、「生物学的に生きている」ということと、「人間として生きている」ことの違いを見失っているという意見もあります。医学は科学の一分野とされていますが、科学そのものにも限界があります。現在では真実と考えられていることが、将来はどうなるか――。ケアについても医療化が進み、医療と同様に死に対してどのように向き合っていくかを考えていく必要があるでしょう。


2014年3月7日 提供:研修最前線