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歯周病は掌サイズの口の穴

歯周病は掌サイズの口の穴
東京医科歯科大学 2013年研修医セミナー
第22週「歯周病と全身の健康との関わり」

全身疾患にも悪影響を及ぼすことが分かってきた歯周病。
全身を脅かす驚くべきメカニズムとは。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野教授の和泉雄一氏が解説する。
まとめ:酒井夏子(m3.com編集部)

■歯周病のリスク因子

では、次に歯周病の病因を見ていきましょう。
細菌感染のひとつですから、歯周病原細菌が注目されます。

歯周病原細菌

歯と歯茎の間の溝、すなわち歯周ポケット内を見ると、歯の表面に厚い層をなしてプラーク(バイオフィルム)が付着しているのが分かります。これを拡大すると、歯周ポケット上皮表面から歯根表面にかけて、しっかり沈着物や付着物があるわけです。この細菌叢は、Red complex、Orange complex、green、yellow、purpleと色分けされています。なぜ色分けされているかと言うと、細菌のグループがしっかり分かれているからです。これまでの研究の結果、歯周病に関連する細菌は、いずれもグラム陰性偏性嫌気性が主体だと分かってきています。

歯周病の発症と進行

歯周病は、プラークあるいはバイオフィルムが歯面に付着することで、歯肉に対して炎症反応や免疫反応が起こり、その結果、歯周組織が破壊されて発症、進行します。付着したプラーク中の「細菌因子」、それに対して体が反応する「生体因子」、また、ヘビースモーカーやストレス、不規則な食生活などの「環境の因子」の3要素が、歯周病のリスク因子です。リスク因子が重なると、歯周病が発症し、重症化すると考えられています。

歯周病のリスク因子

また、全身疾患も歯周病のリスクとなります。特に生体防御系に異常があった場合には、口腔内に強い炎症が起こります。その例がこの13歳の男子の口腔内です。

周期性高中級症減少症の口腔内

かなり歯肉が腫れているのが分かりますか。エックス線写真からも、歯槽骨の吸収が見て取れます。周期性好中球減少症の患者さんで、好中球減少期になると、歯肉の腫脹と歯槽骨の吸収が著しくなります。こうした症例からも、歯周病の進行には好中球が非常に重要な役割を果たしていることが分かると思います。この患者さんを10年間治療し、歯を残そうと努力したのですが、残念ながら歯の保存はできませんでした。

■歯周病が全身をおびやかすワケ

以上のように、歯周病を悪化させるものには、細菌因子、生体因子、環境のリスク因子と全身疾患があります。一方で、最近10数年の研究の成果により、歯周病が全身疾患のリスク因子となる可能性も明らかにされてきています。

歯周病の全身への影響

健康な口腔内が歯周炎にまで進行すると、歯周病原細菌が非常に多く歯周ポケット内で増殖します。それに対して、歯周組織内では炎症性メディエーターが非常に多く産生されます。これが感染性心内膜炎や循環器疾患、糖尿病、早産・低体重児出産、細菌性肺炎というような形で、全身へ影響を及ぼしていくわけです。

Newtonの特集「歯周病が全身をおびやかす!?」

これは2009年に「歯周病が全身をおびやかす!?」という、タイトルで、「日本人の70%以上が歯周病患者。あなたの歯ぐきは大丈夫?」と、Newtonという雑誌に特集として取り上げられたものです。

歯周病が非常に全身の疾患と関わりが強いと言われる理由は分かりますか。まずその始まりは、やはり歯周ポケットになります。歯と歯肉の病的な溝の部分です。その歯周ポケットの中に多くの細菌が潜んでいるわけです。親不知を除いて、28本歯があるわけですが、それぞれの歯の周囲に7mmの歯周ポケットがあると仮定します。そうしますと、歯周ポケットの歯肉上皮側の表面積が計算できます。それを計算すると、誤差を考えて50から70cm²になると考えられています。

中等度から重度の歯周炎に罹患している患者では、歯周ポケット内面の表面積は55〜72cm2になる

ポケット上皮の表面は非常に小さな潰瘍がたくさんあります。微小潰瘍はご存じのように、上皮が薄くなっています。外のものが組織内に進入しやすいのです。すなわち歯周ポケット内のプラーク細菌や代謝産物が、どんどん体中に入り込んできます。ちょうど掌ぐらいの入口が口腔内に存在していると考えることができます。

■歯周病のリスク因子を改善するには

今までの説明で歯周病の病因がわかりました。では治療はどのようにすれば良いのでしょうか。要は、細菌、生体、環境のリスク因子を全部改善すればいいわけです。歯科医としては生体因子については手を出せませんので、細菌因子と環境因子を小さくします。

細菌因子の改善

まず細菌の因子を小さくします。それをプラークコントロールと言います。歯の周りの汚れを低レベルにコントロールすることです。これには歯ブラシを使ったブラッシングやフロスを使った歯間部の汚れの除去、また機械を使った表面の研磨があります。一旦ついた歯石はスケーリング・ルートプレーニング、ガリガリ取っているわけです。そのあとケミカルプラークコントロールとして、歯磨剤や洗口剤を使います。この中には抗菌薬や抗炎症薬が入っています。

バイオフィルムの除去効果

非常に強い炎症がある場合は、そこに付着しているプラークや歯石をブラッシングやスケーリングをして取り除きます。その結果、歯肉の炎症が治まってきます。もちろん何も薬は使っていません。機械的に汚れを取っているだけで、ここまで炎症が改善できました。

環境因子の改善=生活習慣の改善

環境因子の改善については、禁煙や節煙、食生活の改善、ストレスの解消、適度な運動習慣と、生活習慣の改善そのものです。生活習慣の改善で、歯周病の環境因子も小さくすることができるのです(続く)。

2014年3月28日 提供:酒井夏子(m3.com編集部)