White Family dental-site
 
歯科医療と食育
永久歯の一生を決める
時期の食育

 

社団法人日本学校歯科医会副会長・
医学博士 柘植 紳平先生

 小学生から中学生へ。取り巻く環境が変わり、子供たちも自立心が芽生え、大人を意識する時期に差しかかります。そして、先生や親と共に行ってきた子供たちの口腔ケアは、その枠組みを離れたとき、それまで積みあげてきた習慣がもろく崩れてしまうケースが多いとされています。では、口腔ケア教育の何が足りなかったのか、どう改善すればいいのか。 小学校高学年から中学生に向けての、永久歯が生え揃った年代の口腔ケア教育の視点は何かについて、社団法人日本学校歯科医会副会長の歯学博士・柘殖紳平先生にお話を伺いました。

いまのケアが将来の健康な歯を作る
 歯科の教育は小学校では学校指導要領に入っていますが、中学校では入っていません。また、中学生になると部活動なども始まり、生活のリズムが依存型から自立型に変化します。その時に健康面での習慣が崩れてしまうことが多くなるようで、中学生になると口腔状態が悪くなるのはこれらが原因のひとつなのかもしれません。

 生活リズムが大きく変わることは歯や口腔にとって良いことではありません。やはり小学生のうちにきちんとしたリズムを身につけさせることが大切です。しかし、小学校での歯の勉強は、その時点での口腔内のケアについてのみで、現在の口腔ケアが、中学生や高校生、さらに大人になった時のためにどれほど大切なことか、ケアをしないと大変なことになるという視点からの教育は抜けています。

参考資料

ムシ歯予防はまず食育から
 ムシ歯を1本治療しただけという、健全な口腔内の状態だった高校生が卒業して就職しました。半年後に診察に来たときには、なんと24本もの歯がムシ歯になっていました。その原因は缶ジュースでした。職場では毎日10時の休憩、昼休み、3時の休憩、5時の終業後、1日に4回も自動販売機の缶ジュースを飲んでいました。

 ムシ歯を予防するには、口腔内の細菌を増やさないようにすることで、そのための食生活が重要になります。ところが過去40年ほどの日本の学校教育では、ムシ歯予防の対策は歯みがきだけでした。大人たちに「ムシ歯予防に何をすればいい」と尋ねると100人中100人とも『歯みがき』と答えます。いまは、ムシ歯予防で大事なことは、まず食生活だと教え始めています。(参考資料@A)

経験して理解する歯、舌、頬、唾液の役割
 食育は、食育基本法という法律があり教育が義務付けられていますが、日本人は食の本当の大切さをあまり勉強していないと思います。

 食育基本法は食物と食べ方の両方を教えることが基本となっています。食物は口から摂るのだから、口の健康も食育にとっては大切であるということです。歯科の先生から『食育とはなに』と聞かれれば、『口から食べるのだから、口や歯に関することは全てが食育です』と私は答えています。

 歯を治療してきちんと噛めるようにすることも食育です。ですから歯科医師が通常やっていること全てが食育なのです。

 食育と歯科保健教育では重なる部分が大きく、例えば「唾液とはなにか」、「よく噛むと唾液がたくさん出る」などは歯科保健教育で学び、「唾液が出なくなったらどうなるだろう?」は食育で教えられます。

 実際に歯の表面や頬の内側の唾液をティッシュペーパーで拭くと、歯と頬はぴったりとくっついて動かなくなります。子供たちは、「唾液が出ないと口の中がすべらない」ことを理解し、「唾液がないと困る。唾液を出すためによく噛まないといけない」ことが分かります。この後、唾液が口の中の粘膜を保護していることや、食物と混ざることによって消化を助けるなどの唾液の働きを学ばせます。(参考資料B)

噛む力の素晴らしさを教える身近な食育
 また、子供たちが普段意識しない「噛む」ことも、それを意識させることで歯の機能を教えることができます。

 まず、ピーナツを子供たちに配り指でつぶさせます。これはつぶれません。次にピーナツを2枚の板の間に挟み、その上に子供を乗せます。するとピーナツは簡単につぶれ、子供たちはピーナツを潰すには大きな力が必要なことを学びます。その後にピーナツを臼歯で軽く噛ませると、簡単につぶすことができます。このことから、子供たちは「歯には凄い力がある」ことを理解するわけです。小学生高学年なら、この経験から「噛む」ことを意識するようになります。(参考資料C)

 きちんと噛まない子への対策の1つは混ぜることです。ごはんにふりかけをかけたら噛む回数は増え、クルミ入りのパンは、パンだけのものより噛む回数は増えます。沢庵はポリポリと食べ、ごはんとはまた別のチューイングサイクルですが、ご飯に刻んだ沢庵を混ぜると、それぞれとは異なるまったく新しいチューイングサイクルが生まれます。

  食感の違うものを混ぜるということが、人のチューイングサイクルを変えて、よく噛むことにつながります。そうやってお母さんの負担も考えながらできることから改善していくのも食育です。

工夫の余地がある食育
 女子は中学高校になると母性に目覚めます。そこで自分が母親になった時のことを想定して考えてもらいます。
  味覚は3歳くらいまでにできるので、それまでに色々な食物を経験させたほうがいい、一度経験した味は嫌いになりにくいから舐めるだけでも味を教える、お母さんが嫌いなものは子供も嫌いになる、などを教えます。この母親の目線での教育は非常に効果的です。高校生自身と将来生まれる子供の二世代にわたっての食育の成果が上がります。

 男子には、子供の歯をみがいてあげられるお父さんを目指そうと話します。そのためには歯のことや、歯みがきの必要性を自分自身が理解しなければならず、自分の歯のケアにももっと注意するようになるでしょう。これも食育の1つです。食育というとつい身構えてしまいがちですが、難しく考える必要はないのです。(参考資料D)

社団法人日本学校歯科医会副会長・医学博士
柘植 紳平(つげ しんぺい)先生プロフィール

1956年 岐阜県恵那郡生まれ
1961年 福岡県立九州歯科大学卒業
1983年 岐阜県恵那市にて開業、現在に至る
恵那市立中野方小学校他、保小中高の学校歯科医歴任
1995年 中野方小学校が全日本良い歯の学校表彰で文部大臣賞受賞
日本小児歯科学会地域保健委員会委員、日本口腔衛生学会東海地方会評議員
九州歯科大学、愛知学院大学、朝日大学各非常勤講師