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『コジェット』の臨床応用

FOCUS-Resin-to-Metal Bonding
金属とレジンとの新しい接着強化

 

はじめに

臨床でメタルやポーセレンにレジンを接着させる必要性に迫れることは多い。たとえば、破折した金属焼付ポーセレンクラウンやレジン前装冠をコンポジットレジン(Composite Resin:以下CRと略)で修復する場合や、補綴物を接着性レジンでセットする場合などである。金属にレジンを接着させるボンディングシステムはいくつか開発されているが、臨床的には貴金属への接着性は十分といえないようである。また、金属焼付ポーセレンクラウンの破折修理の場合のように、金属とポーセレンの両方に同時にレジンを安定して接着させる方法は複雑な操作であり、より確実な接着システムが望まれるところである。
筆者は、今までさまざまなレジン接着システムを応用してきたが、今回、新しいレジン接着強化システムを臨床応用する機会が得られたので、以下にその概要を紹介する。

1.従来のメタルとレジンの接着法

メタルとレジンの接着は、金属表面を洗浄後、サンドブラストで粗造にして、その後シランカップリング材によるシラン処理でレジンと接着する表面を得るのが簡易な方法である1。
日本では、さらに高い接着力を得るために、メタルプライマーの開発・臨床応用が盛んに行われてきている2〜7。

しかし、セミプレシャスに比べると、プレシャスに対する接着耐久性はやや低い。また、ポーセレン破折の修復の場合、メタルプライマーはポーセレン部分に付着すると接着力が低下する。実際の手技上、メタルプライマーとポーセレンプライマー(シランカップリング材)を塗り分けるのは非常に手間であり、エラーの要因と考えられる。そこで、このメタルプライマーとまったく異なるコンセプトでメタルとレジンの接着を強化させる新しいシステムを臨床応用したところ、良好な結果を得ることができた。

 


■金属とレジンとの新しいシステム


 
レジン接着材  

図1 3M ESPE社(スリーエムエーエスヘルスケアア)から発売されたレジンにたいする接着強化システム『コジェット』。


模式図

図2 新しいシステム上による摩耗科学的表面処理を示す模式図(3M ESPE社)


化学式  
図3 シラン分子がシリケート層表面のシリカと化学的に結合。


2.新しいシステムの特徴


1. 構成

 『コジェット』は、3M ESPE社(スリーエムヘルスケア)から発売されたレジンに対する接着強化システムで、表面処理に用いるコジェットサンド、シランカップリング材のエスペジル、オペーク材のシンフォニーオペーカーパウダーとオペーカーリキッドから構成されている(図1)。コジェットサンドはシリカコーティングされた酸化アルミニウム(アルミナ)で平均粒径は30μmの灰色の粉末である。
CRの接着強さ 破折部の接着
図4 セミプレシャス合金へのCRの接着強さ
(文献8より改変引用)
図5 金属焼付ポーセレンの破折部とCRの接着強さ
(文献9より改変引用)


2. 接着原理


コジェットサンドは、摩擦化学的表面処理(tribochemical coating)により、金属表面をセラミックのようにコーティングする(シリケート化)方法である。技工用として以前から販売されているロカテックサンドのレジンとメタルフレームの接着の原理は、コジェットサンドと同様である。

ミクロンオーダーの粉末を高圧で噴射して、処理する金属表面を微細に粗造にする効果に加えて、表面のシリケート化は、シリカコーティングされた酸化アルミニウム粉末が表面に衝突するときのエネルギーの転移により起こる(図2)。このエネルギーは衝突、摩擦などにより得られるため、摩擦化学といわれている。エネルギーが転移する際に、処理面は局所的に非常に高温となるが、マクロ的な測定では熱の発生はみられない。

この方法でシリケート化された表面にシランカップリング材を塗布することによりシラン化が起こる。シラン化により、メタルリレートモノマーを主体とするレジンやオペーカーとの接着が可能になる(図3)。

3. 接着強さ

新しいシステムによる処理と未処理の場合の金属に対するCRの接着強さを図4に示す。新システムによる処理の場合、優位に接着力が高いことが示されている。この結果は、表面の微細な粗造面の形成とシリケート化によるものであることは容易に想像される。

また、金属焼付ポーセレンのメタルが露出した場合のCRとの接着強さを図5に示す。新しいシステムで処理した場合は、露出したメタルの面積が50%以上でも、セラミックのみの場合よりも高い値を示しており、金属とセラミックの両方に非常に良好に接着していることがわかる。さらに、アルミナセラミック10、ジルコニアセラミック11、チタン12に対する処理においても有用な結果が得られるようである。

3.新しいシステムを利用した修復術式

金属焼付ポーセレンクラウンの破折の修復例を用いてシステムの流れを以下に紹介する (図6)。
@ラバーダムの装着(図6b)。より確実な接着を得るためには、厳密に水分(湿気)を排除した
環境でこのシステムを用いる必要があるので、ラバーダムは必須であると考えられている。
Aコジェットサンドを適切なチェアサイド用のサンドブラスターに取り付ける(図7)。

   
■金属とれじん7との新しい接着強化システム
[症例1:新しいシシステムを用いた金属焼付ポーセレンクラウンのCR修復@]
     
術前 環境作り 塗布
図6a 術前、前歯部ブリッジガム付きポンチックの1」近心切端が破折。
図6b ラバーダムの装着と破折表面の清掃とベベルの付与、スーパーファインのダイアモンドバーを用いて、金属およびポーセレン表面の清掃yを行う。同時にポーセレンの鋭縁を除去しながら外形線に沿ってベベルを付与し、CRがスムーズポーセレンに移行するように環境をつくる。

図6c 『コジェット』による表面処理と指定のシランカップリング材の塗布。

塗布と光重合 マスキング CRの築盛
図6d 指定のボンディン材の塗布と光重合。 図6e オペークレンジによる金属のマスキング。 図6f デンティン色CRの築盛。
築盛 修正と研磨 術後
図6g エナメル色のCRの築盛。 図6h 形態修正と研磨。 図6i 術後。
     
マイクロエッチ・ブロー
図7 マイクロ・エッチ・ブロー(モリムラ)
[症例2:新しいシステムを用いた金属焼付ホーセレンクラウンのCR修復A]
     
術前
図8a 術前
術後
図8b 術後
 


B2〜3気圧の強さで接着面の大きさに応じて5〜15秒間コジェットサンドを処理面にできるだけ直角に吹き付ける。使用中は、口腔外バ キューム等で粉を吸引し、空中に飛散させたりしないように注意を払う。
C軽めのエアーでブローし、付着しているコジェットサンドを除去、バキュームで吸引する。
Dエスペジル(シランカップリング材)を塗布し、5分間乾燥する(図6c)。または、3M ESPE社製のセラミックプライマーを塗布し、
5秒間乾燥する。
Eスコッチボンドマルチパーパスアドヒーシブを接着面に塗布し、10秒間光照射する(図6d)。
Fシンフォニーオペーカーを10秒間練和し、金属面にのみ塗布したら、10秒間以上光照射する(図6e)。
GCRを築盛、研磨して仕上げる(図6f〜i)。

4.その他の適応症

新しいシステムのその他の応用には以下のようなものがあげられる。
・ポーセレン単独の破折の修復(図8)
・金属、ジルコニアセラミック、アルミナセラミック補綴物のセメント接着の際の接着面処理
・矯正用ブラケットの表面処理
・人口歯のレジンによる修復の表面処理

コジェットサンドは、粒径が小さい(30μm)ので、従来の研磨用粉末よりも摩耗率が抑えられ、クラウン辺縁も損傷を与えることなく処理が可能である。また、処理面は色が変わるので、処理した面が確実に確認できるのも有用な点である。

おわりに


新しいシステムによる表面処理は、粉末の噴射と作業で、平滑な金属面を粗造なセラミック面のように変化させて、シランカップリング材のみでレジンとの接着を達成するというシンプルかつ信頼性の高い方法である。

日常臨床では、装着して間もない金属焼付ポーセレンの破折に悩まされることは少ない。従来の表面処理法では、ポーセレンの破折部をCRで修復しても、移行部に褐線が生じたり、CRそのものが脱落することが多かった。しかしこの新しい接着システムを採用してからは、その危険性が大きく減少したことは有意義である。また、このシステムではポーセレンジャケット冠の内面処理を行うことで、支台歯に対して高い接着性を獲得できることも魅力である。

このシステムの長期間の評価はまだこれからの経過観察に委ねなければならないが、少なくとも1年間の臨床観察では信頼できる高い接着性を提供してくれている。
    引用:クインテッセンスより

 

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