リンゴ病大人もご用心 4年ぶり流行 関節痛、流産リスク


 

 頬が赤くなることから「リンゴ病」の名で知られている「伝染性紅斑」が流行している。国立感染症研究所によると、6月20〜26日の週の定点医療機関当たりの患者報告数は1・47となり、平成4年以降で最も多くなった。感染研は「流行のピークは7月。発疹などの症状が出る前の数日間に一番感染力があるので気をつけてほしい」と注意を呼びかけている。

 リンゴ病は夏に患者報告数が増加。定点当たりの報告数は、昭和57年の調査開始以降、62年に1・58、平成4年に1・56を、それぞれ流行のピークに記録しているが、今回の1・47はこれに続く数値。

 都道府県別で見ると、最も多いのが宮崎で3・92。群馬が3・16▽栃木が3・13▽埼玉が3・03と続く。感染研では「リンゴ病はほぼ4〜6年周期で患者報告数が増加する。昨秋以降、患者報告数は例年より高い水準を継続しており、今年は4年ぶりの流行となった。報告数は平成4年以来19年ぶりの高い数値になっている」と説明する。

 潜伏期間の10〜20日が過ぎると、頬が赤くなり、手足にレース状の発疹ができる。治療法がなく、対症療法で対応するしかない。
  
  子供は重症化する例は少ないが、成人の場合は強い関節痛を伴うこともあり、妊婦が感染すると流産を引き起こす原因にもなる。また、溶血性貧血の患者は貧血の症状が重くなるほか、免疫不全の患者では慢性感染になることもある。

 主にせきやくしゃみなどの飛沫(ひまつ)や接触によって感染するが、周りの人にうつすのは、頬が赤くなったり発疹が出たりする前の数日間で、発症後は感染力はほぼ消失している。

 感染研は「例年より高い水準で夏のピークを迎える。保育園や幼稚園、小学校などで流行している場合、終息するまでの間、特に妊婦は感染に気をつけてほしい」としている。

◆伝染性紅斑
 伝染性紅斑(Erythema infectiosum)は第5病(Fifth disease)とも呼ばれ、頬に出現する蝶翼状 の紅斑を特徴とし、小児を中心にしてみられる流行性発疹性疾患である。両頬がリンゴのよう に赤くなることから、「リンゴ(ほっぺ)病」と呼ばれることもある。本症の病因は長く不明であっ たが、1983年にヒトパルボウイルスB19(human parvovirus B19:以下B19)であることが提唱さ れ、その後の研究によって確実なものとなった。病因が明らかになったことに伴って、本症の周 辺には多くの非定型例や不顕性感染例があること、多彩な臨床像があることなども明らかになった。

疫 学
 感染症発生動向調査(1981年7月から)によると、1987年、1992年、1997年、2001年とほぼ5年 ごとの流行周期で発生数の増加がみられている。年によって若干のパターンの違いはあるもの の、年始から7月上旬頃にかけて症例数が増加し、9月頃症例が最も少なくなる季節性を示す が、流行が小さい年には、はっきりした季節性がみられないこともある。同調査で得られた患者 の年齢分布(5歳毎)では5〜9歳での発生がもっとも多く、ついで0〜4歳が多い。小児科定点疾 患としての調査であるため、成人における発生状況の詳細は不明であるが、臨床の場ではし ばしば経験され、看護学生・看護師などの病院内感染による成人での集団感染事例の報告もある。


病原体
 単鎖DNAウイルスの、パルボウイルス科パルボウイルス亜科エリスロウイルス属に属するヒト パルボウイルスB19である。正式名称としてエリスロウイルスB19が提唱されているが、ヒトパル ボウイルスB19(または、単にパルボウイルスB19)の名称が依然として一般的に用いられている。 レセプターは赤血球膜表面にあるP抗原で、P抗原保有細胞、特に赤芽球前駆細胞に感染し、 増殖する。

臨床症状

写真1.両側の頬に出現した蝶翼状の発疹 写真2.上肢伸側に出現した発疹

 10〜20日の潜伏期間の後、頬に境界鮮明な紅い発疹(蝶翼状−リンゴの頬)が現れ(写真1)、 続いて手・足に網目状・レ−ス状・環状などと表現される発疹がみられる(写真2)。胸腹背部 にもこの発疹が出現することがある。これらの発疹は1 週間前後で消失するが、なかには長引いたり、一度消 えた発疹が短期間のうちに再び出現することがある。成人では関節痛・頭痛などを訴え、関節炎症状により1〜2日歩行困難になることがあるが、ほとんどは合併症をお こすことなく自然に回復する。なお、頬に発疹が出現す る7〜10日くらい前に、微熱や感冒様症状などの前駆症 状が見られることが多いが、この時期にウイルス血症を おこしており、ウイルスの排泄量ももっとも多くなる。発疹 が現れたときにはウイルス血症は終息しており、ウイルス の排泄はほとんどなく、感染力はほぼ消失している。通常は飛沫または接触感染であるが、ウイルス血症の時期に採 取された輸血用血液による感染もある。

 伝染性紅斑は当初異型の風疹として発表され、その後独立疾患であることが確立された。これまでも、伝染性紅斑は風 疹の流行時期と重なることが少なくなく、典型的な伝染性紅斑 では臨床診断を誤ることはないが、非典型例では風疹との鑑 別が困難である。英国において行われた血清調査では、風 疹と診断された患者の半数がB19感染であったことが述べら れている。また不顕性感染があり、特に成人に多い。さらに、 成人では発症しても典型的な発疹を伴う頻度が低く、風疹と 診断されている例は小児より多いと推察される。

B19感染像の拡がり−伝染性紅斑のみではないB19感染症
 伝染性紅斑は典型的なB19感染症の臨床像であるが、B19感染症の臨床像は単に伝染性紅斑にとどまらない。溶血性貧血患者がB19感染を受けると重症の貧血発作(aplastic crisis)を生ずることがある他、関節炎・関節リウマチ、血小板減少症、顆粒球減少症、血球貪食症候群(VAHS/HPS)や、免疫異常者における持続感染なども伝染性紅斑に合併、あるいは独立してみられる。

胎児感染−胎児水腫
 B19感染症で注意すべきものの一つとして、妊婦感染による胎児の異常(胎児水腫)および流 産がある。妊娠前半期の感染の方がより危険であり、胎児死亡は感染から4〜6週後に生ずる ことが報告されているが、妊娠後半期でも胎児感染は生ずるとの報告もあり、安全な時期につ いて特定することはできない。しかし一方では、妊婦のB19感染が即胎児の異常に結びつくも のではなく、伝染性紅斑を発症した妊婦から出生し、B19感染が確認された新生児でも妊娠分 娩の経過が正常で、出生後の発育も正常であることが多い。さらに、生存児での先天異常は 知られていない。したがって、妊婦の風疹感染ほどの危険性は少ないが、超音波断層検査な どで胎児の状態をよく把握することが必要である。

血漿分画製剤からのB19感染リスク
 厚生省薬務局発医薬品副作用情報によると、今般、各種血漿分画製剤中にB19DNAがPCR 法で検出されたとする文献が企業より報告されている。B19は他のウイルスに比べて加熱やフィ ルタ−などによる不活化・除去が容易でないため、製剤中への混入の可能性を否定し得ない こと、また、B19ウイルス感染症が一般的には予後良好であるものの、一部の患者に感染した 場合には重篤な症状を招くことがあるとされているため、血漿分画製剤の使用上の注意事項と して、ことに妊婦、溶血性・失血性患者、免疫不全患者、免疫抑制状態の患者に対する使用に あたって注意を喚起している。なお、免疫グロブリン製剤については、製剤中の抗体によって 感染性が失われている可能性も考えられるが、そのことを示す十分な根拠がないため、他の 製剤と同様に使用上の注意事項を変更している。

病原診断
 ウイルスを分離することが病原診断の基本であるが、B19は骨髄、胎児肝、臍帯血などの赤芽球系前駆細胞と、一部の赤白血病細胞株でしか増殖できず、通常の組織培養を用いたウイルス分離培養は現在のところ困難である。PCR法による遺伝子の検出も可能であるが、B19を対象にする場合、健康保険による診療での制約がある。したがって、殆どの場合血清学的診断を行うが、ペア血清について酵素抗体法(ELISA)により特異的IgG抗体の上昇を確認するか、あるいは、急性期に特異的IgM抗体を検出することで診断する。

治療・予防
 特異的な治療法はなく、対症療法のみである。免疫不全者における持続感染、溶血性貧血患者などではγ-グロブリン製剤の投与が有効なことがある。
前述したとおり、紅斑の時期にはほとんど感染力がないので、二次感染予防策の必要はない。また、ウイルス排泄期には特徴的な症状を示さないので、実際的な二次感染予防策はない。現在のところワクチンはない。妊婦などは、流行時期に感冒様症状の者に近づくことを避け、万一感染した場合には、胎児の状態を注意深く観察する。

感染症法における取り扱い(2003年11月施行の感染症法改正に伴い更新)
 伝染性紅斑は5類感染症定点把握疾患に定められており、全国約3,000カ所の小児科定点より毎週報告がなされている。報告のための基準は以下の通りとなっている。

  診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を満たすもの。
  1. 左右の頬部の紅斑の出現
  2. 四肢の網目状の紅斑の出現
  上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾 患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの。

学校保健法における取り扱い
伝染性紅斑は学校において予防すべき伝染病の中には明確に規定はされておらず、一律に「学校長の判断によって出席停止の扱いをするもの」とはならない。したがって、欠席者が多くなり授業などに支障をきたしそうな場合、流行の大きさあるいは合併症の発生などから保護者の間で不安が多い場合など、「学校長が学校医と相談をして第3種学校伝染病としての扱いをすることがあり得る病気」と解釈される。通常の学校などでの対応のめやすとしては、発疹が現れたときには感染力はほとんどなくなっているので、発疹のみで全身状態の良いものについては登校が可能であると考えられる。ただし急性期には、症状の変化に注意をしておく必要がある。
国立感染症研究所感染症情報センター 多田有希 岡部信彦)


2011.07.05 提供:産経新聞