真健康論:第32回 交感神経の役割=當瀬規嗣
私たちの内臓や器官はそれぞれの役割を果たすため、独自に活動します。しかし、その活動が単にバラバラに行われたのでは、体全体としてバランスを失い、ひいては病気を起こすことになります。
そこで、内臓や器官の働きを総合的に調節する神経が必要で、それが自律神経と呼ばれる神経システムです。自律神経は交感神経と副交感神経の大きく二つの系統に分かれています。二つの神経系が役割を分担して、内臓、器官の働きを調節します。このうち、交感神経はヒトの体を活動的にする働きがあります。
仕事をしたり、運動したりするときに、体が活発にスムーズに動く必要があるわけです。これ自体は脳や筋肉の働きですが、この脳や筋肉が働くためのエネルギーや酸素の供給体制を整えるのが交感神経の役割です。交感神経が働くと、ドキドキと心臓が活発に動き出し、たくさんの血液を全身に送り込みます。皮膚や消化器などの血管は収縮し、この部分の血流を少なくし、筋肉内の血管は拡張して、心臓が送り出した血液を筋肉内に重点的に流します。皮膚や消化器などの血管が収縮するため、血圧が上がるので、脳にもたくさんの血液が流れます。
こうして脳や筋肉に重点的に流れ込んだ血液には、やはり交感神経の働きで、肝臓から糖分がたくさん供給されており、また気管支が拡張するので、酸素もより多く溶け込んでいます。こうして筋肉や脳は豊富なエネルギーと酸素を得ることができるので、最大限の能力を発揮できるというわけです。
こうした役割をもつ交感神経の活動が最高潮になるのは、強いストレスを感じたり、身の危険を感じたりするような事態に陥ったときです。「戦うのか?」「逃げるのか?」。闘争と逃走のどちらを選択するにしても、肉体を最大限に使うことになるからです。
身の危険には寒さも含まれます。そこで、交感神経は体が寒さに耐えられるように、皮膚の血管を収縮したり、毛穴を締めて鳥肌をたてたりして、熱の放出を防ぎます。また、脂肪の分解を促進することで熱を作り出し、体を温めようとします。こうした交感神経の働きは、脳の命令によって起こります。ストレス、運動開始、寒さなどを脳が感じ取り、交感神経に命令して、体の備えを整えるのです。(とうせ・のりつぐ=札幌医科大教授)
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