薬味工夫し効能引き出す

あつあつあのご飯に納豆。日本の食卓に欠かせない納豆の、優れた健康効果が注目されている。納豆が健康にいいのは大豆を丸ごと食べられることと、それを発酵させた発酵食であるため。納豆の効能とそれを引き出す薬味を紹介しよう。

大豆は「畑の肉」と呼ばれるほど栄養価が高い。たんぱく質は卵より多く、コレステロールはほぼゼロ。カルシウムをはじめとするミネラルや、心臓病を防ぐ大豆イソフラボンが多い。

豆腐も大豆を加工した優れた健康食材だが、通常は食物繊維を取り除いている。納豆博士として知られる倉敷芸術大学の須見洋行教授は、「納豆は大豆を丸ごと使うので、大豆の食物繊維をそのままとれます」と話す。納豆1パック(50グラム)で食物繊維の1日推奨量の7分の1(約3グラム)をとれる。

納豆はこの大豆を稲ワラなどにすむ納豆菌で発酵させる。納豆菌は善玉菌の一種で、人間の腸内で乳酸菌を増やして便通を改善するなどの整腸作用がある。

発酵によって、納豆独自の健康成分も生まれる。ナットウキナーゼと呼ばれる酵素はその1つで、血液をサラサラにしてくれる。納豆のあのネバネバの糸は、ナットウキナーゼが大豆のたんぱく質を分解してできるものだ。

ナットウキナーゼの発見者でもある須見教授は、「ナットウキナーゼは体中の血液が固まるのを強力に防ぐ。さらに、血栓を溶かすウロキナーゼという体内にある酵素を活性化します。この2つの作用で血液をサラサラにします」と語る。

須見教授の実験によると、納豆を食べると12時間後まで、血栓を溶かす酵素が高い活性状態を示す。血栓を溶かす医薬品より数十倍も効果が長持ちするという。「統計によると、脳梗塞(こうそく)が最も起こりやすいのは夜中の2時から3時。夕食で納豆を食べておけば、翌朝まで血栓を起こしにくい状態を維持できます」(須見教授)

血液をサラサラにしておけば脳梗塞や心筋梗塞だけではなく、動脈硬化や糖尿病といった生活習慣病を防ぐことにもつながる。

発酵によって生まれるもう1つの成分ビタミンK2は、骨を強くする。納豆1パックでビタミンKの1日当たりの栄養所要量の3−5倍と、十分な量をとれる。

「骨粗しょう症が気になる女性はぜひ納豆を」と須見教授は語る。

このほか納豆には、活性酸素の害を減らす抗酸化成分や高い血圧を下げる成分が含まれている。こうした数々の健康効果を引き出す食べ方を紹介しよう。

まず、できれば毎日食べたい。ナットウキナーゼによる血液サラサラ効果は食べてから約半日続くが、それ以降は弱まるからだ。

次に、火を使った調理を避けること。ナットウキナーゼは熱に弱いからだ。ただし、納豆のにおいが苦手な人は、揚げギョウザのように包んで揚げるとにおいが飛ぶため、食べやすくなる。「納豆をきちんと皮に包んで短時間で揚げれば、ナットウキナーゼの損失が少ない。納豆菌やビタミンK2は揚げても失われません」(須見教授)

賞味期限ギリギリまで待ってから食べると、より効果が高まる。発酵が進むほどナットウキナーゼやビタミンK2が増えるからだ。

最後に、薬味やトッピングを工夫すること(写真は表紙左上)。健康効果が高まり、よりおいしく食べられる。例えば、オクラ、アシタバ、山芋といったネバネバ食材をトッピングして加えると食感が良くなるだけでなく、胃腸の調子も整えてくれる。キムチや野沢菜漬けといった発酵食を加えれば、乳酸菌をとれるので整腸効果がより高まる。

タマネギ、青のり、お茶の粉末などの香りの強い食材を加えると、納豆のにおいを抑えることができる。

なお、脳梗塞や心筋梗塞の発作後にのむ抗凝固薬ワルファリンを使用している人は、ビタミンK2が薬の作用を弱めるので、納豆を食べるときは医師や薬剤師に相談したい。(『日経ヘルス』編集部)

(2002.5.18 日本経済新聞)