受動喫煙に似た大気汚染
 

Dr.中川のがんの時代を暮らす:

 前回、日本の受動喫煙対策の遅れを取り上げました。この受動喫煙に似た「不本意な」健康被害に、大気汚染もあります。

 僕が子どものころは、「光化学スモッグ注意報」が発令されて、屋外で遊べなくなることがよくありました。今の日本で注意報が出されることはめったにありません。ところが、隣国の中国、特に北京市などでは大気汚染が進み、深刻な事態となっています。

 中でも、車の排ガスや工場の排煙などに含まれる直径2・5マイクロメートル以下の微小粒子状物質「PM2・5」が問題になっています。PM2・5は髪の毛の直径の40分の1と非常に小さいため、肺の奥深くまで達し、ぜんそくのほか肺がんのリスクを高めます。

 実際、セントルイスなど米国の6都市で調べた大気中のPM2・5の濃度と住民の肺がんの死亡リスクは、深い関係がありました。また、米国の非喫煙者約19万人を対象にした調査では、PM2・5の平均濃度が1立方メートルあたり10マイクログラム上昇するごとに、肺がんの死亡率が15〜27%も上昇することが分かっています。

 一方、中国の現在の汚染は、想像をはるかに超えるレベルです。北京の米国大使館が敷地内のPM2・5を測定し、ツイッターで発信していますが、昨年11月に世界保健機関(WHO)の基準の20倍となる1立方メートルあたり500マイクログラムを超え、現在も高い水準です。日本国内でも最近、大阪府内で一時60マイクログラムを超える濃度を記録し、福岡市でも通常の3倍の数値になるなど、西日本各地の濃度上昇が観測されています。中国沿岸部で発生したPM2・5が風で日本に運ばれたためと考えられています。

 肺がんや中皮腫の原因となるアスベストは、先進国では原則使用禁止となっていますが、中国ではまだ使われています。中国沿岸部のビルの破壊などで放出されたアスベストがPM2・5と同じように日本に飛来する可能性もあり、注意が必要です。もっとも、たばこの害と比べれば健康影響は非常にわずかです。過剰に心配する必要はありません。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)

2013年2月11日 提供:毎日新聞社