"勝手に動く"大切さ 反 養老孟司
「養老先生のさかさま人間学 からだと働き編」
せきをしたり、くしゃみをすることは、よくありますね。鼻や気道に異物(いぶつ)が入ると、それを追い出すために、体がいわば勝手に反応(はんのう)します。こういうはたらきを「反射(はんしゃ)」といいます。
せきのような反射はあるていどしかおさえられません。しばらくガマンすることはできますが、最後にはガマンできなくなるのがふつうです。
息をすること、つまり呼吸(こきゅう)も反射と似(に)た性質(せいしつ)を持っています。息をしないでしばらくガマンすることはできますが、最後にはガマンができなくなって、どうしても息をしてしまいます。
おぼれるのは、そのせいです。水の底にいて、息をしないでいても、2、3分後にはかならず息をしようとしてしまうのです。だから肺(はい)に水が入って、おぼれてしまうわけです。
お医者さんがゴムのついた小さいハンマーで膝(ひざ)をたたくことがあります。以前は診察(しんさつ)室でよく見かけました。これは膝蓋骨(しつがいこつ)という丸い骨(ほね)の下にある腱(けん)をたたいています。腱をたたくと、腱がのばされます。腱がのばされると、その腱につながっている筋肉(きんにく)が反射的に収縮(しゅうしゅく)します。だから膝から下の足が、ピンとはね上がるわけです。
反射をおさえるのは、脳(のう)のはたらきです。だから反射をおさえられるか、おさえられないかは、そのはたらきが脳とどのていど関係しているかによります。膝の場合には、反射をおさえることができませんから、脳はほとんど関係していないことがわかります。
大人になると、こうしたせきやくしゃみのような反射をおさえなければならない場合が多くなります。自然のままにできると、楽なんですけれどね。(解剖(かいぼう)学者、筆文字も)
※くしゃみ
鼻の奥(おく)が刺激(しげき)されると、肺(はい)の空気がいきおいよくはき出される現象(げんしょう)。せきのように、わざと出すことができない。さまざまな迷信(めいしん)があり、日本や中国では、くしゃみが出るのはだれかがうわさしているからとされる。米国などでは不吉(ふきつ)の前兆とされ、くしゃみをした人に「神のお恵(めぐ)みを(God bless you!)」と言う習慣(しゅうかん)がある。
2013年7月1日 提供:共同通信社