7月→頭 三叉神経痛 感覚神経を血管が圧迫
顔面に激しい痛みを感じる三叉(さんさ)神経痛。洗顔や歯磨きでも痛みが起き、しゃべったり食事したりすることが困難になるなど、生活の質を低下させる。痛みをコントロールするには、自分に合った治療法を選ぶことが大切だ。
●食事も満足にとれず
横浜市の松岡安子さん(88)は3年前の春、口の右上部に激痛が走り、食事も満足にとれなくなった。「焼け火箸でえぐられる感じ。風が当たるだけでも痛く、外に出るときはマスクをして、お茶もストローで飲んでいました」と振り返る。
「歯か歯ぐきに原因があるのでは」と思い、口腔(こうくう)外科を受診。医師に三叉神経痛と診断され、1カ月ほど内服薬を飲むと痛みが治まった。しかし、翌春も痛くなり、薬が欠かせなくなった。
今年5月にかかりつけ医に相談すると、「神経ブロック」という治療法を教えられた。東京都内の病院を受診、痛みを伝える神経を遮断する治療を受けると痛みがなくなった。松岡さんは「しびれは残るが、痛みに比べれば何ともない」と語る。
●加齢も一因
三叉神経とは、痛みや温度などを感じ取って脳に伝える感覚神経の一つ。脳の「脳幹」と呼ばれる部分から延び、3本の枝に分かれて顔面に分布している。三叉神経痛は、この神経が周囲の血管に押されて起きると考えられる。
50代以降で発症しやすく、女性にやや多い。三叉神経の分布に沿って、鼻や頬から下の部分に痛みを感じる人が多い。発作性の強い痛みは通常、数秒から数分で治まるが、重症だと痛みが断続的に続き、日常生活に支障が出る。
なぜ中高年に多いのか。横浜市立市民病院神経内科の山口滋紀部長は「加齢による動脈硬化で血管の蛇行が強まり、神経を圧迫しやすくなるため」と説明する。ただ、腫瘍など他の病気が原因になっていることもある。MRI(磁気共鳴画像化装置)などで調べる。
●まずは内服薬で
治療の第1選択は内服薬で、抗けいれん薬の「カルバマゼピン」を使う。めまいやふらつき、発疹などの副作用が出る人には、別の薬を使う場合もある。山口部長は「薬だけでコントロールできない時は、神経ブロックを併用する。効果が乏しければ手術を選ぶこともある」と話す。
手術は、圧迫された神経から血管を離す。手術できない人はガンマナイフという放射線治療もあるが、医療保険の適用外のため、全額が自己負担になる。
神経ブロックは、高周波の電流で熱を発生させた針を使い、神経を凝固させる「高周波熱凝固法」が中心。NTT東日本関東病院ペインクリニック科の安部洋一郎部長は「日帰りで治療でき、1回で1年以上の効果がある。効果が長い神経節を直接ブロックする方法は入院が必要」と話す。
安部部長は「これで完璧、という治療法は現在はないが、次の手段はある。つらければ、痛みを扱う外来などに相談してほしい」とアドバイスする。【下桐実雅子】