唾液介して感染、EBウイルス
「慢性活動性EBウイルス感染症」─Vol.1

 

東京医科歯科大学、研修医セミナー

ほとんど誰もが感染しているEBウイルス。
EBウイルスの再活動で発熱や肝臓の炎症を起こすこともある。
「慢性活動性EBウイルス感染症」を血液内科の新井文子氏が解説。

Epstein-Barr Virus (EBウイルス)EBウイルスはごくありふれたウイルス

講師は血液内科講師の新井文子氏

新井 今日は「慢性活動性EBウイルス感染症」と言われている病気についてお話したいと思います。この病気は非常にまれで、知らなければ診断できないものです。しかし診断できないと患者の命に関わる非常に重要な病気です。なかなか目にしないかもしれませんけれども、今日ここで覚えておいてもらい、もし「おかしいな」と思う患者がいたらEBウイルスを測ってみる、ということを頭の隅に入れていたければと思います。

今日お話しするのは、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV: Chronic Active Epstein-Barr Virus infection)とはどういう疾患なのか、ということです。

まずEBウイルス(Epstein-Barr virus)とはどういうウイルスなのかお話します。

このウイルスは、ヘルペスウイルスの仲間です。発見されたのは意外と新しくて、1964年にバーキットリンパ腫(Burkitt lymphoma)の腫瘍細胞の中から発見されました。

EBウイルスは世界中で5歳までに50パーセントが「不顕性感染」します。20歳以上の人だと、感染率は90パーセント以上になります。みなさん20歳以上だと思いますので、ほとんどの方が感染しているということになると言われています。しかし最近のデータでは、初感染年齢が上がっている、とも言われています。

 小さい頃にEBウイルスに感染すると、不顕性感染ということになりますけども、思春期以降に感染すると、「伝染性単核球症」という病気になります。

EBウイルスは人に感染した後、排除されず身体の中に一生潜みます。どこに潜むか。ヘルペスウイルスですからどこかに潜むのですけど、たとえば水痘・帯状疱疹ウイルスでしたら、神経細胞に潜みますよね。

EBウイルスは普通「B細胞」という細胞に潜むと言われています。多くの場合、一生身体の中でおとなしくしています。おとなしくしてはいるのですけど、ときどき増えて、唾液の中にある程度の量がいることになります。唾液を介して、ウイルスが感染するということです。

EBウイルスの感染経路と潜伏メカニズム

EBウイルスが感染する経路と潜伏するメカニズムをもう少し詳しくお話しましょう。まず、ウイルスはだいたい口を通じて唾液から入り、上咽頭の粘膜に付着します。そこで、咽頭の粘膜と、そこのB細胞に感染します。B細胞は中でさかんにウイルスを作って、ウイルス粒子を排出します。これらの細胞は細胞障害性T細胞(CTL:Cytotoxic T Lymphocyte)のターゲットになり、排除されていきます。

EBウイルスの感染症によって「伝染性単核球症」が生じると、末梢血中にリンパ球がかなり増えます。増えているリンパ球ってどちらだと思いますか。B細胞でしょうか。T細胞でしょうか。実はCTLなんですね。T細胞です。B細胞ではなくて、CTLによって免疫反応が起こっているのです。この免疫反応が肝臓の炎症を起こしたり、強い発熱を起こしたりする原因になり、身体を傷害するのです

ある程度ウイルスが増えた後、CTLによって落ち着くと、B細胞は今度はウイルスを出さない「潜伏感染」という形に感染のスタイルを変えます。こうなるとB細胞はCTLの攻撃を逃れるようになり、そのまま生き残り続けるのですよね。これを潜伏感染(Latent infection)といいます。このようなしくみでEBウイルスは一生、人のなかに潜みます。

EBウイルスはB細胞を「不死化」

EBウイルスはB細胞を「不死化」


EBウイルスがB細胞に感染すると、どういうことが起きるのでしょうか。試験管の中でEBウイルスをB細胞に感染させると細胞は大きくなって、死ににくくなります(不死化)。不死化したB細胞はそのままでは増えてしまうのですけども、CTLが見張っているので、身体のなかではある程度以上は増えません。ですので、症状がでない、潜伏感染のままでいるわけです。

ところが、例えば、年齢が上がって免疫のバランスが崩れてきたときや、免疫抑制剤による治療を受けているときなど、CTLの働きが不十分になった場合、見張り役がいなくなります。そんなとき、EBウイルスに感染したB細胞は再び増え、さらに一部の感染細胞はウイルスを産生するようになり(溶解感染、Lytic infection)、場合によってはそれが腫瘍化するということが起こるのです。

これは非常に重要なことで、EBウイルスはごくありふれたウイルスですが、ひとたび免疫のバランスが崩れると腫瘍につながることは、みなさんよく覚えておいてください。

以上がEBウイルスが初めて感染した後、潜伏感染となる通常の流れです。では、これからCAEBVとはどんな病気かについて説明していきたいと思います。

 
2013年7月31日 提供:まとめ:星良孝(m3.com編集部)