睡眠薬、抗不安薬の「3剤以上の多剤投与」にメス

  


中央社会保険医療協議会

睡眠薬、抗不安薬の「3剤以上の多剤投与」にメス

精神科医療:認知症、身体疾患合併患者などの対策も議論

 11月2日の中央社会保険医療協議会総会(会長:森田朗・東京大学大学院法学政治学研究科教授)で精神科医療の改定内容について議論、睡眠薬と抗不安薬を3剤以上の多剤投与した場合に、診療報酬上で何らかの制限を加える方針が打ち出された(資料は、厚労省のホームページに掲載)。

 厚生労働省は、厚生労働科学研究「向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究」で、添付文書の用量を超す処方が、抗不安薬の4.2%、睡眠薬の13.6%に見られたというデータを提示。これらを3剤以上投与する医療機関と保険薬局それぞれに対し、診療報酬上で対応するとした。

 海外のガイドラインでは、APA(米国精神医学会)では抗精神病薬や抗うつ薬は単剤を推奨、NICE(英国立医療技術評価機構)でも抗うつ薬や抗精神病薬の併用は行わないとするなどの投薬制限がある。日本でも2010年度診療報酬改定で、統合失調症の患者への抗精神病薬の投薬について、「非定型抗精神病薬加算」が、「2種類以下」と「それ以上」に分けて点数が設定された。

 3剤以上の多剤投与の制限について、基本的には了承が得られたものの、丁寧な議論が必要だとしたのが、京都府医師会副会長の安達秀樹氏。「精神科領域は診断が難しい上、多剤投与になることも少なくない。その一因が新薬の薬価。新薬ならば1剤で済む場合でも、患者負担を抑えるために安価の薬剤を複数使うケースがある」と指摘、単に多剤投与を制限するのではなく、多角的な検討が必要だとした。

11月2日の中医協総会では、医療経済実態調査の結果も報告された。

 健康保険組合連合会専務理事の白川修二氏は、多剤投与の制限を支持、さらに一つの医療機関だけでなく、複数の医療機関にまたがる場合の多剤投与の制限も必要だとした。「二つの、時には20以上の医療機関から抗精神病薬の投与を受けているケースもある。多剤投与による薬剤の無駄をなくすべき」(白川氏)。

 白川氏の発言を受け、議論は発展。安達氏も、京都府医師会では医師会員同士で情報共有し、複数の医療機関にまたがる場合の抗精神病薬の多剤投与の制限に取り組んでいる現状を紹介。「患者から、『なぜ他院での情報を持っているのか』と言われることがあるが、これは患者のためを思った上での対応。個人情報保護法上でも問題にならないのではないか」と安達氏は質問、厚労省は同法上の解釈を調べ、改めて説明するとした。

 そのほか、2日の中医協総会では、下記の点について議論された。主な論点は以下の通り。

【認知症対策】
・鑑別診断:認知症疾患医療センターと一般の医療機関の連携を評価するなどして、適切な認知症の鑑別診断につなげる。
・入院治療:認知症治療病棟入院料の「30日以内」を評価し、BPSD(認知症の行動・心理症状)に対応、退院支援部署の評価などにより、早期退院を促進。
・重度認知症患者のデイ・ケア:長時間ケアを評価。

【身体疾患を有する精神疾患患者等の救急医療】
・救急患者の受け入れ:一般医療機関における受け入れ体制の強化。
・一般病棟における合併症患者:せん妄、うつ病などを伴う患者に対するリエゾン・チーム(精神科医、精神看護専門看護師などから構成)の介入を評価。
・精神科病棟における合併症患者:精神病棟入院基本料等算定病棟における、院内外の他科への転棟、あるいは他科医師による対診などの評価。

【精神療養病棟】
・精神療養病棟の入院患者の退院促進のため、GAF値が30以下の重症患者の入院料および退院支援部署を評価。

【地域移行】
・精神科デイ・ケア:患者の状態像に応じたプログラムの評価。
・訪問看護:多様なニーズに応えるため、他職種との役割分担や時間設定などの見直し。医療機関と訪問看護ステーションの精神科領域の訪問看護について、担い手や対象患者などの相違の是正。
・外来の体制:地域に移行した患者の時間外対応などのために、通院・在宅精神療養の評価。

【その他】
・外来における抗精神病薬:3剤以上の多剤投与の制限。
・認知行動療法:医師以外が行う認知行動療法、うつ病以外への対象拡大を評価。


2011年11月3日 提供:橋本佳子氏(m3.com編集長)