化学療法効かないCAEBV

  

東京医科歯科大学、研修医セミナー第7週
「慢性活動性EBウイルス感染症」─

CAEBVの根治療法は造血幹細胞移植となる。
1つの疾患なのか不明なのがCAEBVの根本問題。
血液内科の新井文子氏が解説する。

造血幹細胞移植で治すしかない


講師は血液内科講師の新井文子氏

新井 慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV: Chronic Active Epstein-Barr Virus infection)の治療の話をしましょう。残念ながら化学療法のみでは治癒は期待できません。現在治癒が期待できる唯一の治療法は造血幹細胞移植です。ただ、いきなりの移植は行わず、まずは抗炎症剤と化学療法で炎症症状を抑えます。

 初期治療についてお話します。T細胞がEBウイルスに感染して増えていて、いろんなサイトカインを出して炎症の元になっているので、それらの細胞を抑えればいいわけですから、サイクロスポリンとプレドニゾロンと、そしてエトポシドという薬剤を使いますこれは血球貪食症候群と同じ治療です。

 

化学療法によるEBV感染細胞の排除は不可能である

化学療法によるEBV感染細胞の排除は不可能である

 しかし病態が進んでくると、リンパ腫や白血病(末梢性T細胞リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫鼻型、アグレッシブNK細胞リンパ腫)に進行します。もしくはこうなった場合には、リンパ腫、白血病の治療を行わないと、症状を抑えられない状態になってしまいます。抑えられないと致死的ですから、移植までたどりつけずに亡くなってしまうということになります。残念ながら、私たちのところでは、今まで2人、移植までたどりつけずに亡くなってしまいました。

診断後はできるだけ早く造血幹細胞移植を

診断後はできるだけ早く造血幹細胞移植を

 しかし、残念ながらCAEBVから進行したリンパ腫、白血病は化学療法がほとんど効きません。ではどうしたらよいかというと、可及的に早く診断をつけて、早いうちに、つまりリンパ腫や血球貪食症候群を起こす前に移植して治します。元気なうちに移植をしましょう、ということは、なかなか医者のほうからは言いづらいことですが。患者の立場からも移植をうけることを決断するには病気に対する十分な理解が必要です。この治療の難しさはこういうところにあります。

 大阪母子保健総合医療センターの治療成績では適切な時期に造血幹細胞移植を、骨髄非破壊的前処置で移植を行なうとかなりの方が3年以上生存できるようになってきたのが、現状ですね。

 当科での治療成績では、昨年の統計ですが3年無病生存率はおおよそ7割です。長い人で、移植後5年経過しています。

CAEBVは、1つの疾患なのか?

CAEBVをめぐる問題 一つの疾患か?

CAEBVをめぐる問題 一つの疾患か?

 いままで、非常に簡単に、単純化してCAEBVについてお話しましたけれども、実はさまざまな問題があります。CAEBVはEBVが感染したTもしくはNK細胞の腫瘍の一種であるとお話しました。でもこれを1つの疾患としてまとめてよいのかはまだ決まっていないと思います。

 症状もかなり多彩です。どういう人が蚊刺過敏症を起こして、どういう人が起こさないのか、ということも全く分かっていないです。NK細胞に感染する人にこの症状が多いという人もいますけど、CD4とかで出てくる人もいますし、NKでこれ起こさない人もいますし、よくわからない。ほんとに1つの疾患として単純にくくっていいのかどうか、ということもあるのです。

 また、伝染性単核球症(Infectious mononucleosis IM)からこの病気になる、という人もいるのですけど、ちょっと判断は難しいですよね。実は、IMの急性期のリンパ節は病理でもリンパ腫と見分けが付かないことがしばしばあります。

 さらにクロナリティなんかを調べてしまうと、クロナリティが出ることが、まれではないのです。繰り返しますがIMとの区別は極めて大事です。

 だから伝染性単核球症から続発したCAEBVと言われる患者をみると、ほんとにCAEBVかどうか私は心配します。

 伝染性単核球症がすごく重症化してしまう先天性の病気があります。X連鎖リンパ増殖症候群(XLP: X-linked lymphoproliferative syndrome)という小児科の病気などです。そんな病気も隠れていないか、注意をしなければなりません。

 IMとの区別がどうしてもつかなかったら、経過を見て下さい。1年ぐらい経って悪くなるようだったらCAEBVを考える、ということで良いかなと思います。熱が2〜3カ月続く場合もありますので、3カ月超して続くようだったら、やっぱりEBウイルスを調べた方がいいかもしれません。両方の区別は、感染細胞を解析して、経過を見るしかないですね。難しいです。でもほとんどのIMはいくら長引いても1年ぐらい経ったらだいぶよくなってきます。

最後にまとめを示します。

CAEBVをめぐる問題 一つの疾患か?

CAEBV(EBK-T/NK-LPD)とは



2013年8月12日 提供:まとめ:星良孝(m3.com編集部)