ノロウイルスによる胃腸炎の集団発生が1月、相次いで明らかになった。特に注目されたのは浜松市の小学校給食で起きた大規模な食中毒。ノロウイルスは経口感染するため、最終的に口に入るのを防げばいいのだが、感染力の強さに加え感染経路の多様さ、さらに症状がなくてもウイルスを排出する不顕性感染があるなど、封じ込めは難しい。専門家は「特に食品を扱う人は全員が『自分はウイルスを広げているかも』と意識を変えてほしい」と指摘する。
▽食材より人
国立感染症研究所ウイルス第二部の片山和彦(かたやま・かずひこ)室長は、浜松市で900人を超す児童が下痢や嘔吐(おうと)などを訴え欠席したニュースを聞き、すぐに「学校給食だろう。パンも可能性の一つ」と考えたという。浜松市はその後、業者が納入した給食パンを原因食品と発表した。
給食パンは、これまで何度かノロウイルスの集団食中毒の原因になったことがある。焼く時は「85度で90秒以上加熱」という安全ラインを満たしているが、過去の例では、その後の加工時などに汚染の機会があった。
ノロウイルスは、かつてカキなど二枚貝が主な感染源とみられていた。だが近年は、ウイルスが調理従事者を介し食品に付着したとみられる例が多い。2000年ごろから検出技術が進歩し、感染の実態が少しずつ明らかになってきたためだ。
「特定の食材が危ないのではない。結局原因は人だということです」と片山さんは言う。
▽重ねた紙も透過
感染力はすこぶる強い。わずか10〜100個のウイルスで発病につながるうえ、低温で乾燥した場所では60日も生き残るという。便に排出されたウイルスがトイレなどで手に付き、手洗いが不十分だったため他人に広がるというのが代表例な感染経路だが、じゅうたん敷きの床に患者が嘔吐した後、乾燥して舞い上がったウイルスが別の人の口に入ったとみられる集団感染も起きている。
トイレでウイルスが手に付く可能性はどの程度か。東京都健康安全研究センターの林志直(はやし・ゆきなお)ウイルス研究科長らはそれを調べようと、ノロに似たウイルスを混ぜた溶液を板の上に置き、ダブル(2枚重ね)のトイレットペーパーで拭き取る実験をしたことがある。
10枚重ねて紙が計20枚になるようにして拭いても、指からウイルスを検出。林さんは「下痢を想定した実験なので、下痢でなければ付着量は減るだろうが、トイレでウイルスが指に付くリスクは相当に高い」と話す。
▽10人に1人
下痢などの症状が治まった後もウイルスは1週間から時には1カ月も排出される。全く症状が出ない不顕性感染もある。
感染研の片山さんのチームが05〜06年にかけ、ノロウイルス感染が起きた全国の施設の調理従事者から集めた2370余りの検便試料を調べたところ、症状がない1786人中122人(7%)からノロウイルスが検出された。しかもウイルスの量は症状がある人とほとんど差がなかった。「感染に気付いていない人は最大で10人に1人程度と考えられる」という。
感染の有無が自宅などで安く簡単にチェックできればいいが市販品はない。医療機関で使われる迅速診断もウイルス排出量が少ないと正確な診断はできないという。どうすればいいのか。
片山さんは「流行期の冬場は、誰もが自分も感染源である可能性を自覚することが大切。とりわけ食品関係の人は、そうした意識でトイレ後や調理前などに丁寧に手洗いをするなど、衛生管理を徹底してもらうしか有効な方法はない」と語る。(共同=吉本明美)