北海道)動くがん狙い撃ち 北大に世界初の治療施設
臓器のがんの動きを追いかけて陽子線を精度よく当てる放射線治療装置が北海道大病院に完成し、17日、公開された。呼吸に合わせて動く肺や肝臓などのがんにも放射線治療を行いやすく、X線に比べて放射線を出す範囲を限定しやすい陽子線を使うことで、小児がんの患者にも効果的な治療が期待できるという。
がん治療法の一つである放射線治療は、外科手術、化学療法と並ぶ選択肢だが、従来は頭や首、前立腺など患部の固定がしやすく放射線を当てやすい臓器に限られていた。
治療装置は、北大の白土博樹教授を中心に開発した世界初の「動体追跡型放射線照射技術」と、腫瘍(しゅよう)の形に沿って高い精度で陽子線をあてる日立製作所の「スポットスキャニング照射技術」を組み合わせたもの。がんの近くに最大2ミリほどの金のマーカー(目印)を埋め込み、2台のカメラでその動きを毎秒30コマの撮影で特定しながら、計画した位置に目印が来たときだけ陽子線を照射する。
陽子線は体内での透過力が高く、がん細胞で止まる直前に高い放射線量を出すため、体表面近くの正常細胞への影響を極力抑えてがん細胞を狙い撃ちできる。陽子ビームを腫瘍の形に沿って当てることで、正常な部位に放射線が当たる影響を最小限に抑えられる。
費用は治療内容によるが、約250万円。北大病院では、19日に骨・軟部腫瘍の患者へのスポットスキャニングを使った治療を開始する。動体追跡システムは現在薬事申請中で、両者を組み合わせた治療は秋までに開始の見込みだ。
患者は年間200人を想定。これまでは北大病院だけでも年間10人程度を陽子線・重粒子線治療ができる道外の病院へ患者を紹介していたといい、白土教授は「治療の選択肢がひとつ増やせた。北海道の患者さんに活用して頂き、北大病院で治るという症例が積み上がれば、国内外からも患者さんに来てもらえると思う」と話している。(熊井洋美)