「ミス減る」推奨の企業も
働く人に昼寝を勧める動きが広がっている。眠気を解消して、作業能率の低下やミスを防ぐことが目的。
職場での昼寝を認める企業があるほか、昼寝ができるカフェやマッサージ店もでてきた。
午後1時半過ぎ、さいたま市のリフォーム会社「オクタ」のオフィス。パソコンに向かう社員たちのすぐそばの席で、1人の男性社員が机に小さな枕を置いて顔をうずめて、寝始めた。同社には、社員が昼寝をする権利を認める「パワーナップ(短時間の仮眠)制度」がある。
同社は2年前、会長の奥田勇さんの発案で仕事の能率アップを目的に制度を設けた。申告は不要で、眠気を感じた社員は15-20分、自席や休憩室などで寝ることができる。ほとんどの社員が制度を使った経験があるといい、午後からの長時間の研修や会議でも、途中昼寝時間が設けられる。
経理担当の山田郁子さん(33)は「眠い時に電卓を使うと、ミスが怖くて再度確認し、結局時間がかかる。昼寝を始めてから効率が上がったと感じる」と話す。
日本人の平均睡眠時間は外国人に比べて短い。経済協力開発機構(OECD)が3月に公表した調査では、7時間43分。全26か国平均の8時間19分より30分以上少なく、韓国に次いで2番目に短かった。
厚生労働省は3月、11年ぶりに改定した「健康づくりのための睡眠指針」で、勤労世代は必要な睡眠時間を確保しにくいと指摘。午後の早い時間に30分以内の昼寝をすると作業能率改善に効果的だと勧めている。
大阪市のインターネットコンサルティング会社「ヒューゴ」も職場で昼寝ができる。7年前、スペインなどの企業を参考に、午後1-4時を昼休憩「シエスタ」とする制度を設け、そのうち30分ほどの昼寝を推奨している。
社長の中田大輔さん(34)は「判断が鈍ったり、アイデアが思い付かなかったりするのは眠い時。シエスタ後は気分を切り替えて働ける」という。
昼寝場所を提供する店もある。東京都千代田区の「おひるねカフェcorne(コロネ)」は、女性専用の昼寝場所。睡眠時間を記録できるサイトを運営する「ねむログ」(東京)が昨年11月に開いた。
利用は10分160円。天蓋付きマットレスが8人分あり、アロマオイルが香る。枕は硬さや形の異なる17種類から選べ、有料で寝間着の貸し出しなどもする。ランチと昼寝がセットになったサービスもあり人気。店長の塚島早紀子さんは「仕事に家事、育児と忙しい女性は睡眠時間を削りがち。隙間の時間を睡眠に充ててもらいたい」と話す。
名古屋市のマッサージ店「メディカルリラクゼーション フォレスティ」も、座って足を温めるなどしながら昼寝できるコース(15分600円から)などがある。
研究者らで作る日本睡眠改善協議会(東京)常務理事で、医学博士の白川修一郎さんは「眠気は12時間周期で強まるため、夜のように、午後にも眠くなる。短時間の仮眠で情報処理などの脳の働きは回復することがわかっており、昼寝は仕事でのミスを減らすうえで効果がある」と話している。
目安は15時までに15分間…頭痛や体のだるさ防ぐ
多忙な時期、昼食後に睡魔に襲われ、職場の机で寝てしまった経験のある記者(34)。目覚めた時に首が痛かったり、頭が重いと感じたり、後悔したこともある。働く人向けの昼寝方法を、睡眠コンサルタントの友野なおさんに教えてもらった。日本睡眠改善協議会の認定資格「睡眠改善インストラクター」などを持ち、各地で講演活動も行っている。
「働く人の昼寝時間は、二つの『15』がポイント。15時(午後3時)までに、15分間と覚えてください」。友野さんによると、15分以上眠ると、眠りが深くなって、起きた時に頭痛や体のだるさにつながる場合が多い。午後3時より遅い時間だと、夜の睡眠時間に差し障るという。
タイミングがよいのは昼休みだ。「午後の眠気を予防できます」。寝る前にはコーヒーなど、眠気を覚ますカフェインを含む飲料を飲むとよい。効果が表れるのは目覚めた後なので、睡眠の余韻が残りにくい。
15分以上寝ないよう、携帯電話などのアラームを設定し、リラックスできる体勢を取る。友野さんのお勧めは、壁際のいすに座り、頭を壁にもたせかけた姿勢だ。足は少し前に投げ出すように伸ばし、腕は垂らしても組んでも。日頃から首の痛みや張りがある人は、肩に載せて首を支えるタイプの枕を使うとよい。
机に突っ伏すと胃を圧迫し、食後は消化によくない。この体勢を取る場合は、腹部が折れ曲がりすぎないよう、枕代わりに小さなクッションなどを敷く。
睡眠時は体温が下がる。「オフィスに冷房が入る時期には、カーディガンやひざ掛けなどで防寒を忘れずに」と話す。
助言を取り入れ、1週間、昼食後に昼寝をしてみた。初日は自席でいすにもたれ、アイマスクをして仮眠したものの、電話の呼び出し音が鳴るたび起こされ、うつらうつらしたのは最後の方だけだった。
2日目以降は休憩室に移動して目を閉じた。人の声もあまり気にならず、日ごとに眠るまでにかかる時間が短くなった。15分たって起きると、頭がすっきりして軽い。15分という時間が重要なことが実感できた。
友野さんは「脳と体を休める昼寝は、ストレス社会を生き抜くすべ。ぜひ習慣づけてみて」と話す。上司の皆様、昼休みに寝ている姿を見かけても、ご理解ください。(岡本久美子)
引用: 読売新聞 2014年5月20日(火)