ポイントを絞り語りの「素人」で

テレビ通販でおなじみのジャパネットたかた(長崎県佐世保市)。急成長の秘密は自ら番組に出演し、ものの3、4分で商品に興味を持たせる高田明社長(55)の「語り」にあるようだ。自分の意見をきちんと伝えるのに、そのコツを応用できないか。

朴訥(ぼくとつ)な口調が熱を帯び、最後は「付属品、全部つけて5万円切りました。よんまん、きゅーせん、はっぴゃくえん」と締める。思わずモノを手に取りたくなる語り口、というわけか日経MJの通信販売調査・テレビ通販部門で、ジャパネットたかたは売上高一位となった。

パソコンやデジカメといった家電製品など取り扱い説明書は難解だ。それが高田さんにかかると、子供の絵本のようなわかりやすさになる。

テレビ通販で商品説明にかける時間は1点、3−5分。まず商品のすべてを語ろうと思わないことが大事だ。ハロゲンヒーターなら、スイッチを入れて2秒で暖がとれるというところに重点を置き、3分間のうち1分を割く。他の暖房器具が及ばない「2秒」が視聴者の脳裏に残る。

効果、性能についてわかりよい数字や比較の対象を示すのは初歩。用語を自分の言葉に変換する作業も欠かせない。コンピューターの心臓部となるCPUなら「小学生の頭脳か、大学教授の頭脳か(の違いが表れる部分)と説明する。「中央演算処理装置」と口にしてはいけない。

言葉の流麗さなどおかまいなし。助詞や主語、術語を省くのも手だ。冒頭の例だと「付属品を」の「を」は省く。「日本語はそれで通じるわけで」。話し言葉としてのあいまいさに甘えていいというわけだ。
「アナウンサーにはなれっこない」と話す高田さんには独特のイントネーションがある。
「あれは生まれた平戸(長崎県)のしゃべり。地元ではみんなあんな感じです」。以前、服装の専門家をつけたら首にスカーフを巻かれ、閉口した。今は普通のスーツ。

企業の研修を多く手がける「CNS話し方研究所」(東京都文京区)の福田健所長は「自分で話上手と思っている人の言葉は意外に耳に残らないことがある。高田社長はいい意味であかぬけず、自分の地を出すので印象に残る」とみる。

生放送でも台本は使わない。「お年玉付き年賀はがきが発売になった」など時事の話題を機微に取り込むためだ。また同じ商品でも「生放送の方が反応がいい」(同社)というのはアドリブの応酬の緊張感がにじむからだろう。「本当に何かを伝えたいという心があれば」(高田さん)、台本に目をくれる必要はない。

いわゆるプレゼンの教科書に載っている点もあるが、高田さんは専門的に学んだわけではない。この訴求力はラジオ通販の時代に培われたようだ。「ラジオでもモノを見せることはできる」と事もなげだ。たとえば超小型カメラ。「名刺より小さく、携帯電話より軽いんです、と話せばラジオでも商品がみえる」

ただし、このわかりやすさは深い商品知識のたまもの。飛行機でも住宅でも3分でアピールできるか?「できるように勉強します」。収録の場には必ずメーカーの担当者が付き、商品のポイントを突き詰めながら、丸1日かけて撮る。ものごとをかみくだき、3分で料理してみせるにはそれなりの下ごしらえが要るということを忘れないように。
(篠山正幸)

たかた あきら
1948年長崎県平戸市生まれ。大阪経済大卒後、機械メーカーに勤め、のちに実家のカメラ店に。86年独立し、ジャパネットたかた(当時は「たかた」)を興す。

3分でわかってもらうには
・ 商品のすべてを語ろうとしない
・ 目、顔、指、体すべて動員
・ 大きさ、数量は身近な対象物と比較
・ 専門用語は自分の言葉に変換
・ 業界の常識を持ち込まない
・ 日本語のあいまいさに甘える
・ しゃべりの「プロ」にならない
・ 自分の地を出す
・ 台本に頼らない
2003.11.29日本経済新聞