身に覚えはありますか
女性に多い現代病
体力作りが予防策

ひどい疲れが半年以上続く慢性疲労症候群(CFS)。ストレスの多い現代社会の病の1つで、きまじめな性格の女性がかかりやすいといわれる。かかった場合の病院探しや治療法、予防策などを考えよう

埼玉県のカウンセラー、宗守優子さんは20代だった20年ほど前、慢性疲労症候群にかかった。当時は小学校の教師。起床時から疲労を感じるようになり、1カ月のうち1−2日、仕事を休んだ。病院に行っても検査結果は「異常なし」。出産後は起きているのもつらくなり、休職した。

まじめな人襲う
漢方治療を手掛ける病院を探し、慢性疲労症候群と診断されたのが91年。発症から数年が経過していた。漢方薬と針で症状を大幅に改善させ、その後は自然食中心の食事を続けるなどして完治した。宗守さんは「もう少し早く病気の存在が認知されて有効な治療ができていたら、こんなに苦しまなくて済んだかもしれない」と振り返る。

慢性疲労症候群は80年代から米国などで注目され始めた。日本ではほぼ1000人に3人の割合で苦しんでいるとの統計もある。患者の約60%が女性という。「20代後半から30代の高学歴でまじめな女性がある日、突然発症する」(日本大学板橋病院の村上正人心療内科科長)

厚生労働省が定めた診断基準では、生活を著しく損なうような強い疲労が半年以上続き、1カ月のうち数日は仕事を休むなどの状態があらわれる。詳細は表に示したので、気掛かりなりチェックしてみよう。

もっとも医師らの研究によりウイルスやストレスとの関連性などが指摘されているが、詳しい病因や治療方法は完全にはつかめていない。この病気が患者にとってやっかいなのは医師の診察や検査を受けても異常が見つからないうえ、周囲からさぼっていると誤解を受けやすいことだ。

もし、発症したり、疑いのある場合はどこで診察を受ければよいのか。

大阪大学大学院医学系研究科のホームページ
(http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/bldon/www.cfshome.html)には専門的に診てくれる全国の医師が掲載されている。ただ、最近は患者が多過ぎて、村上科長ら多くの医師が予約制にしているという。

診察は問診から始まる。
「患者に病気を納得してもらうため1人30分以上かけて診る。精神科の医師が加わることもある」(関西福祉科学大学の倉恒弘彦教授)。慢性疲労症候群と診断されると、抗うつ剤を投与したり、ビタミン剤や漢方薬などを使い、治療を進める。

完治に2−3年
症状に改善がみられたら、公園にでかけて軽く運動したり、新鮮な空気を吸うなどしてリフレッシュに努める。回復具合を確かめるため簡単な日記を付けることもある。「きまじめな性格をリラックスさせたり、仕事中心の生活習慣を変えたりする必要もあり、完治まで2−3年かかる」(村上科長)。倉恒教授は「根気の必要な治療で、患者と医師の信頼が大切」と話す。

日ごろ疲れを感じているOLやサラリーマンらが慢性疲労症候群にかかるのを防ぐ方法はあるのか。病気のメカニズムは解明されていないものの、予防方法と考えられていることはいくつかある。

当たり前のことだが、運動で体力を付けたり、簡単な体操やストレッチで筋肉をほぐし、疲れをため込まないようにしたい。自然の豊かな場所に出かけたり、温泉につかってのんびりするのもよい。村上科長は「心身をリフレッシュして疲労に負けない免疫力を高めることが大事」と強調する。

女子栄養大学の高橋敦子教授は「食生活を含めた生活習慣を見直すべきだ」と訴える。多忙や好き嫌いなどを理由に食事は不規則になったり、偏る傾向がある。そうなると疲労を克服する体力も低下してしまう。「栄養価の高い肉など特定の食材ばかりを食べず、ご飯を主食に昔から言われる『一汁三菜』を心がけるのがよい」(高橋教授)

一方、最近では子どもの不登校や引きこもりが慢性疲労症候群と関連があるとの研究も医師らの間で進んでいる。埼玉の宗守さんは自分の体験を病気に苦しむ親子に生かしてもらう狙いから「こんがりトーストの会」(http://www3.plala.or.jp/kongari/)を発足させた。約20人の会員らと定期的に勉強会を開いている。

 

身に覚えはありますか

忘れっぽい・筋肉痛・熱っぽい・頭が痛い・ノドが痛い・疲れたしんどい・欠勤

慢性疲労症候群の診断基準

▽前提条件

@ 日常生活が損なわれる激しい疲労が半年以上続く
A 検査により他の病気でないことが証明される。
▽ 条件A……症状が半年以上続く
@ 微熱がある
A のどが痛い
B リンパ節が腫れて痛い
C 筋力が低下する
D 筋肉が痛む
E 軽い作業の後に全身のけん怠感が1日以上続く
F 頭痛がする
G 関節が痛む
H 思考力低下、物忘れ、うつなどの症状
I 不眠、眠り過ぎなどの睡眠障害
J 発症時に主な症状が数日以内に出る
▽ 条件B点……1カ月以上の間を置き医師が2回確認
@ 微熱がある
A のどの炎症
B リンパ節の腫れ、痛み
前提条件を満たしたうえで、@条件Aが8項目以上該当、またはA条件Aが6項目と条件Bが2項目以上――の場合、慢性疲労症候群と診断

 


2004.1.17 日本経済新聞