電車内で記憶力鍛錬
テレビ見ながら運動

50代ともなれば気力や体力の衰えを感じる人も少なくないはず。普段から心がけていても、仕事をもつ中で実践するのはなかなか難しい。ただ、ちょっとあいた時間を使うことで衰えをある程度防ぐことができる。日常生活の中で簡単にできる「5分間有効活用術」を探った。

集中力や判断力の低下、脳の老化などに関連するといわれるのが短期記憶力などをつかさどる脳の前頭前野。他者とのコミュニケーション、創造性、複数の物事を同時に行うのに重要な役割を果たす。

脳科学が専門で『脳を鍛える大人の計算ドリル』『脳を鍛える大人の音読ドリル』などの著書がある東北大学教授の川島隆太さんは「前頭前野」を鍛えるには@読み、書き、計算A積極的に人とコミュニケーションをとるB手や指を使って何かを作り出す――などが重要」と指摘する。

日常生活の中で5分でできることは何か。

読むことについては新聞のコラムや本の音読に効果がある。音の言語と文字の言語の両方を使うためだ。声の大小は関係ないので、人に迷惑をかけない程度なら電車の中でもできそうだ。

計算は街を走る自動車のナンバーや喫茶店のメニューに出ている価格を使って足し算や引き算をしてみるとよい。

書くことについては日記をつけてみるのも有効だ。

人とのコミュニケーションについては、例えば電話やメールを使わなくても済むなら直接会って用件を伝えよう。

手や指を使って作る作業は料理をしたり食器を洗ったりするだけでも効果がある。

川島さんは「たとえ1日に5分でも意識して継続すると効果が高まる。年をとることによる能力の低下はある程度予防できるはず」と強調する。

記憶力の低下も50代以降になると気になってくるもの。前頭前野を鍛えて記憶力を維持するほか、外出先などであいた時間を利用するとより効果的だ。

例えば電車内。前に座っている人の服装や中づり広告などを見たら目を閉じてみて、どんなものだったか思い出してみる。

呼吸をゆっくりと往復で「1つ」「2つ」と数え、10まで数えてみるのも記憶力の鍛錬につながるという。

『頭がよくなる記憶術』などの著書があり、企業研修の講師を務める松本幸夫さんは「時間を5分と決めることにより、集中力が高まる。時間的なノルマを課したほうが記憶力にはいいトレーニングになる」と話す。

寝る前や風呂に入っている時間などを利用し、記憶の確認をしてみるのもひとつの方法だ。5分間と時間を決め、その日にあった出来事を朝から順に思い出してみよう。ある程度慣れてきたら時間をさかのぼって思い出すとより効果的という。

筋力の衰えも50代以降は気になるところ。たとえ5分程度でも毎日続けることで筋力低下を防ぐことができる。

自治体と提携して健康づくりのアドバイスを実施している筑波大学発のベンチャー企業、つくばウエルネスリサーチ(茨城県つくば市)ウエルネス推進課リーダーの長谷部佳奈子さんは「上半身と下半身をつなぐ大腰筋を鍛えることが重要」と話す。

大腰筋は太ももの骨と背骨をつなぎ、足を引き上げるときに使う筋肉。弱ると転倒や骨折の原因になる。

日常でできる具体的なトレーニング法はいくつかある。

1つは下半身の運動。肩幅に足を開いていすの後ろに立ち、いすの背に手をかけて45度程度にひざを曲げる。

2つ目は大腰筋と腹筋を鍛える運動。あおむけに寝ながら両ひざをたててゆっくりと起き上がるようにする。

3つ目はお尻の筋肉を鍛える運動。いすの背を両手でもち、足をかかとからゆっくりと後ろへ持ち上げ1秒間静止し、ゆっくりと下ろす。

それぞれ10回ずつ繰り返せば5分から10分程度でちょうどよい運動になる。この3つに上半身の運動である腕立て伏せを組み合わせてもよい。

長谷部さんは「テレビを見ながら、あるいは寝る前の時間を利用するなどして1日に1−3回実施すれば、効果は高まる」と強調する。

一方、子どもの独立などで家を広く感じる50代も多いはず。特に掃除は大変だが、毎日5分間心がけるだけで労力を軽減できる方法もある。

『家事する男は美しい』などの著書があるフリー編集者の藤原ゆきえさんが提唱するのが「朝の5分間掃除」だ。

まず羽ばたきか化学ばたきを用意し、リビングの棚やテレビなどほこりの目立つ場所を掃除するのに3分。
洗面所は最後に使った人が水滴やせっけんの汚れなどをフェースタオルでふき、使ったタオルを洗濯機に入れるだけ。これが1分間。

トイレは便座や便器の下など目立ったところをトイレットペーパーでふき取る。これも1分。短時間でできない場所は休日にまわせばよい。

ほかにも、100円ショップで売っている小さなちり取りとほうきのセットを用意し、玄関や台所に置いておく。出かけるついでに玄関掃除を簡単に済ませ、台所は汚れたらその場で掃除してしまう。

テーブルに文具などが入る小さなかご、部屋には服や雑誌などが入る大きめのふたがついたかごを用意する。部屋がちらかっていても、とりあえず入れておけば見た目も整理され、5分程度で片づけができるというわけだ。

藤原さんは「掃除も片づけも、毎日5分間でできることをするだけで労力の軽減につながる。継続すれば実感できるはず」と話している。

場所別にみた5分間活用術
家では
・新聞や本を音読する
・ドリルなどを使って計算する
・料理や食器洗いをする
・その日にあった出来事を朝から順に思い出す
・寝る前などに筋力トレーニングをする
・ほこりのめだつ場所、洗面所、トイレは朝に手早く掃除する
・室内にかごを用意し、ちらかっているものを片づける

電車内では
・乗客の服装や中づり広告を記憶する
・1呼吸をゆっくり10まで数える

外出先などでは
・自動車のナンバーや喫茶店のメニューの料金などを使って足し算や引き算をする
・すれ違う人の服装を順番に覚える

2005.1.9 日本経済新聞