これまでの話を読んで、ダイビングをやってみようと思う人がいたら、非常にうれしいが、ダイビングは陸とは全く異なる、圧力の変化という特殊な環境の中で楽しむ唯一のレジャーである。さほどハードなスポーツではないが、この点から、ダイビングをお薦めできない病気が存在する。

まず、「自然気胸」といって肺に穴が開き、空気がそこから胸腔(きょうくう)内に出て、肺がいったんつぶれてしまう病気がある。背が高いヒョロッとした人に多く、「ブラ」と呼ばれる小さな袋状の部分が先天的にあると、これが原因になる。ブラは非常に弱く、破れやすい。

息苦しさや胸の痛みを感じたら、病院へ行き、管などで肺の外へ出た空気を吸引すれば治る。あまり繰り返す時は手術を受ける。ブラが1個だけなら、摘出すればダイビングも可能だが、こういうケースはまれで、ほとんどの場合、全部摘出することは困難である。

以上は陸での話。もし、水底でブラが破裂すると大変だ。空気は吸えるから、肺の外へ出た空気は胸腔内にドンドンたまる。苦しいので浮上すると、この空気が膨張、逃げ場がないため、心臓を圧迫し、突然、心停止を起こす。これを「緊張性気胸」と呼び、海ではまず致命的になるため、この病気をやった人はダイビングは一般 的に禁忌である。

喘息(ぜんそく)もこれまでは、すべて禁止だったが、最近は、原因のはっきりしている場合に限り、その因子がない状況下でのみ許可できることもある。ただし、運動で息苦しくなって発作を起こす運動誘発性喘息と、急な温度変化で発作を起こす寒冷誘発性喘息の場合は、禁止である。

喘息も空気は吸えるので肺が膨張する。苦しいからと浮上すれば、さらに膨張して結局、肺の破裂を引き起こす。これも致命的だから、喘息のある方はダイビングを始める前に、専門医に必ず相談して欲しい。 (医療法人 社団成美会 吉村せいこクリニック   吉村 成子)

(2000.8.19日本経済新聞)