長期戦で体質改善
定期注射、症状軽減も


花粉症?まだ考えたくもない――。毎年春になるとスギ花粉症に悩まされる人も、冬の今はこんな心境かもしれない。しかし、花粉症がまだ発症していない年内のうちに、症状を軽くするためにできることがあるようだ。

花粉症対策には、時間がかかるが効果が比較的大きい「長期戦型」と毎シーズンを乗り切るための「短期決戦型」がある。長期戦型の代表が「減感作療法」で、花粉のエキスを体内に計画的・段階的に注射していき、体を慣らしてアレルギー症状が出ないようにする方法だ。

初めの4カ月月間は週1−2回、注射をうける。徐々にエキスの量を増やし、一定量に増えた後は2カ月に1度のペースで注射を3−5年続ける。注射ではなく舌下にエキスを入れる方法も臨床試験が進んでいる。聖路加国際病院耳鼻咽喉科の今井透部長によると、症状が大幅に改善する率は6−7割と高い。自然に治る率が1割以下であることを考えれば、かなり効果的な治療法といえる。

手間と時間がかかるが「それだけの価値はある」と語るのは米国在住の会社員、荒舩あゆみさんだ。荒舩さんは花粉飛散期には寝込むほどで、米国で友人にすすめられ減感作療法を開始。2年たった今では少し鼻がぐずぐずして目がかゆい程度に改善した。

健康保険の対象
治療終了までの期間は長いが「注射を始めて数カ月でも少しずつ効果が表れ始める」(今井部長)。今始めれば、来年のスギ花粉症の季節には少し効果が表れる可能性があるという。日本で減感作療法を受けられる病院は東京都内の場合、大学病院の半数程度と限られるが、健康保険は適用される。インターネットなどで情報を収集するといい。

一方、東洋医学の力を借りてじっくりと体質改善に取り組むのも効果的だ。東京女子医科大学附属東洋医学研究所の西條亜利子医師は「柴胡(さいこ)という成分が入った漢方薬などを長期間服用し続けると、アレルギー反応が出にくくなる」と話す。ただし、体質が変るまでには数年かかると覚悟しよう。

長期戦型の対策では、食生活の改善など体調管理が大きな役割を果たす。漢方・西洋医学の両面から花粉症治療を実施する西田メディカルクリニック(豊橋市)の西田元彦院長は「体を冷やさないようにし、胃腸機能を低下させないことが大切」と指摘する。体が冷えると胃腸機能が低下。「特に小腸は免疫構造と密接に関係していることがわかってきている。胃腸機能が低下していると花粉症は改善しにくい」と話す。

寒くなり始めたら生活を花粉症対策モードに切り替えよう。暴飲暴食はやめ、和食中心にする。生野菜は避け根菜など体を温める食事を心掛ける。飲酒はほどほどにし「喫煙は絶対やめること」(西條さん)。冷え解消にハーブ茶や足浴を活用してもいい。長期戦が難しい場合は、短期決戦型で臨むことになる。短期決戦で最も効果的なのが飛散前から服用する「初期療法」。抗ヒスタミン剤やケミカルメディエーター遊離抑制剤などの薬を少なくとも1−4週間前から服用する。

東京都目黒区に住む主婦の岡崎睦子さんは初期療法で花粉症を毎年乗り切っている。スギ花粉の飛散量が過去最大といわれた2年前には12月から服用を開始し、ほぼ毎日忘れずに飲み続けた。多くの花粉症患者が苦しむなか「ちょっと鼻がむずむずする程度で乗り切れた」という。

ポイントは飛散より早く飲み始め、飲み忘れず、途中で止めないこと。服薬の計画を立てるため、年末から年明けには病院で受診し、これまでの症状などを相談することが必要だ。この時期は耳鼻咽喉科もまだ空いており、医師とじっくり話せる。

漢方薬の利用も
漢方薬でも初期療法にも向くものがある。東洋医学は花粉症だけをみるのではなく、体内の「気・血・水」のバランスを整える薬を処方するため「胃腸機能を高めるために漢方薬を飲んで花粉症が良くなったり、花粉症で服薬していたら冷えや生理痛が治った例もある」(西條さん)。

花粉症の季節が終わったら「薬の効果などについて医師と話し合い、今後の治療方針を決めるといい」と聖路加の今井部長。こうした面から相談できる医師を探すことも花粉症克服のカギだろう。
(ライター  藤原 仁美)


花粉症にはこうして備えよう

長期戦なら
減感作療法
花粉エキスを注射。開始数カ月から効果。終了まで3〜5年
漢方で体質改善
柴胡(さいこ)剤などを長期間服薬
生活を見直す
冷えに注意
胃腸機能を低下させない
飲酒ほどほど、タバコは避ける
睡眠不足、ストレス避けて
風邪予防を心がける
短期決戦なら
年末から年明けごろに病院へ ⇒飛散前から服薬
第二世代抗ヒスタミン財、ケミカルメディエーター遊離抑制剤などを飛散終了まで飲み続ける
漢方も有効
鼻水⇒小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
鼻ずまり⇒葛根湯(かっこんとう)
冷え⇒麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)など



2006.11.4 日本経済新聞