ルーシーダットン 呼吸法に特徴
中高年・体の硬い人も

2千数百年前、タイで生まれたという健康体操「ルーシーダットン」。ストレッチと体操をあわせたようなヨガに似た健康法で「タイ式ヨガ」や「タイ式ストレッチ」と呼ばれる。
ヨガやピラティスよりも難易度が低く、運動不足や体の硬い人でも始めやすい。筋力の衰えた高齢者やヨガに挫折した中高年に適しているという。

「息を吸いながら体をひねって。限界になったらストップ。息を吐きながら元に戻す」。千葉県木更津市にあるロイヤルドゥクリニック。穏やかな日差しの昼時、自宅からデイケアに通う高齢者がいすに座りながら様々なポーズをとる。90歳を超える高齢者も講師の矢地孝医師のかけ声にに合わせて懸命に体をひねる。うまくポーズをとれずに看護師の手を借りる人もいるが表情はみな真剣だ。

高齢者向けの運動プログラムにルーシーダットンを取り入れたのは「動作が単純で柔軟性や筋力が要求されることはほとんどない。運動不足や足腰の弱った人でも続けやすい」(矢地医師)からだ。
足の悪い高齢者に配慮して座ってできるポーズに絞っているが、普段はまったく運動をしない人には効果がある。木更津市に住む入江ササコさん(80)は昨年からルーシーダットンを始めた。「足が弱って子供の支えなしには歩けなかった。今では股(こ)関節が軟らかくなり歩くのがつらくなくなった」と喜ぶ。

ヨガやピラティスと違うのが呼吸法だ。鼻から5秒かけて吸いながら体を動かし、元に戻すときに5秒かけてゆっくりと吐く。矢地医師は「息を吸いながら体を動かすと関節の動く範囲が広がる。よりひねったり伸ばしたりすることができる」と指摘する。下腹に力を入れながら酸素を取り込んでしっかりと吐くことで血液の循環がよくなるとされる。

タイ語で仙人を意味する「ルーシー」に、「ダッ」(伸ばす)と「トン」(自ら)でルーシーダットン。タイの修験者が山中にこもって修行するときに、凝ったり痛んだりした体をほぐすために編み出したとされる。
日本では2005年からじわりと広まってきた。日本ルーシーダットン普及連盟(東京・渋谷)によると、30歳前後の女性を中心に人気が高まっている。同連盟の代表でタイの格闘技ムエタイの選手だった古谷暢基氏は「予防医学の観点からも、中高年のエクササイズとして最適。体の硬い人に試してもらいたい」と強調する。

40歳代で普段は運動とは無縁の記者も試してみた。同連盟と協力関係のある「ひーる・おーる・りーぷす(東京・世田谷)」の親子を対象にした教室に参加した。1年近く通い続けている女子小学生のさまになったポーズを参考にしながらやってみた。

座骨を床に着ける基本姿勢で骨格のゆがみを見つけたほか、体が硬くなっていることを痛感した。講師の三浦美智留さんの評価は「初めての男性にしてはまずまず」。

1時間半の間に呼吸法のほかに8つほどのポーズを実践した。簡単なポーズの割には汗をかきのどが渇くのが意外だった。レッスンの合間に水分をとった方がよいという。

帰宅後、もう1度やってみたが覚えていたのは2つほど。ポーズを覚えるまでは教室に通ったほうがよいようだ。  
(青木慎一)


肩がこる仙人のポーズ

(1)座骨を床につけて横座りになり、胸を張った状態で右手で足首を持ち、左手を肩にかける
息を吸いながらひねる

(2)肩にかけた手でツボを押しながら、上半身を左にひねり、右足首を手で引き上げる。息を吐きながら@に戻す

星を追いかけるポーズ

(1)右足を前に出し、両腕を肩の高さに上げて人さし指を立てる。顔を左に曲げて左手の人さし指を見る
息を吸いながらひねる

(2)右足に体重を移動させながら、左手をゆっくり弧を描くように前へ動かす

(3)指先がそろったら3秒間維持する。指先を見ながら息を吐いて@に戻る

水鳥をまねるポーズ

(1)右足で立って左手で左足を持つ。右手は目線の高さにする
息を吸いながら動かす

(2)左足を持ち上げながら、右手を前方に伸ばす。右ひざを曲げてバランスをとる

(3)体を伸ばしきったところで左手と左足が引っ張り合うようにして姿勢を維持。息を吐きながら左足を床におろす





2006.11.19 日本経済新聞