■オリーブ油→動脈硬化防ぐ
■固ゆでパスタ→太りにくい
■トマト→抗酸化成分を含む
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ワインを片手に、パスタやピザに舌つづみを打つ――。女性を中心に人気のイタリア料理だが、日本食と並んで健康にいい料理としても注目されている。オリーブ油をたっぷり使い、固ゆでのパスタ、トマトをはじめとする豊富な野菜と果物、魚介類。イタリア食材の健康への効用を探った。
南イタリアやスペインに代表される地中海料理は、オリーブ油をたっぷり使うことから一般には高脂肪食と思われがち。高脂肪食は太りやすく、心臓に悪いというイメージがあるが、こと地中海食に限っていえば、それは誤解だ。
国立健康・栄養研究所の板倉弘重名誉所員は「食事で摂取する脂肪をオリーブ油に代えると、心臓病予防に効果があることが証明されている」と話す。
フランスでは1988年から「リヨン・スタディー」と呼ばれる大規模な臨床研究が行われた。約600人を対象に地中海食を食べ続けた場合と、フランスの普通の食事を食べ続けた場合を比較したところ、5年後の心筋梗塞(こうそく)の再発率はフランス食では20%強、地中海食では10%弱だったというのだ。
オリーブ油が普通の油と違うのは、オリーブの実も皮も種もすべて使い、いわば丸ごと絞ったモジュースモであること。東京慈恵会医科大学の横山淳一助教授(内科学)は、「サラダ油のように精製されていないので、体にいい成分を多く含んでいる」と指摘する。
オリーブ油は不飽和脂肪酸の中でも最も酸化されにくいオレイン酸を70%以上含む。また、老化の原因となる体の酸化を防ぐ抗酸化成分も多い。これらの働きが動脈硬化の原因物質ができるのを妨げ、動脈硬化や心疾患になりにくいとされている。
イタリア料理の主食といえるパスタも、健康に重要な役割を果たしている。
同じ炭水化物でも、パスタはご飯などに比べて血糖値をゆっくりと上げる性質がある。血糖値が急上昇すると、それを下げようとしてインシュリンが一気にすい臓から分泌される。これが繰り返されると、体脂肪がたまりやすく、肥満につながる。パスタならその心配が少ないという
。
このためイタリア料理は「ゆっくり時間をかけて食べる」という意味も込め、ファストフードに対比して「スローフード」とも呼ばれ始めている。
ゆで加減にもコツがある。しんが残り、歯ごたえがある固さ(アルデンテ)でとどめるのが良い。消化・吸収がゆっくりになり、体脂肪がたまりにくい。腹持ちもいいので自然と間食が減り、総摂取カロリーを減らす効果も期待できる。
日本食と地中海食を比べてみると・・・
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現代日本人の食事
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地中海食
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●炭水化物は米、パン
●野菜が少ない
●油は少ない。精製油が中心
●塩、砂糖、化学調味料で味付け
●魚介類が多い
●夕食がメーン
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●炭水化物はパスタ、ピザ
●野菜が多い
●油は多い。オリーブ油が中心
●トマトのうま味やハーブ類で味付け
●魚介類が多い
●昼食がメーン |
※和食は低脂肪で高繊維の健康食だったが、戦後、脂肪摂取が急増し、繊維量が減った。南イタリア食に学ぶことは少なくない。 |
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イタリアを代表する野菜、トマトにも体脂肪を抑え、老化を防ぐ効用があるという。脂肪を吸収するリパーゼという酵素の働きを阻害する作用があり、肥満を改善する効果がわかっている。リコピンという強力な抗酸化成分を含み、がんの予防効果があるとも考えられている。
トマトの年間消費量はイタリアでは1人約70キログラム。ちなみに日本人は約1/10の1だ。緑黄色野菜、魚介類、ニンニク、ハーブ、ワインなど健康によい食材を多用する一方、肉はあまり使わないことも特徴だ。
ただし、食後のデザートは砂糖を使ったものを避け、フルーツにしたい。精製された砂糖は血糖値を急速に高めるので、このとき油を一緒にとると体脂肪としてたまりやすいのだ
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横山助教授は「日本人は油にしろ塩にしろ精製した材料を使うが、それはおいしさと健康から離れること。地中海食を味わって考えてみては」と話している。(『日経ヘルス』編集部)