オーラルケアの有無で術後感染が起きる

 

予防的口腔ケアで術後感染や口内炎を減らす

外科的手術や癌治療の前の“口”が、注目され始めている。口の中の細菌を減らして治療に臨むと、術後の合併症や口内炎の症状が軽減するなど、様々なメリットが報告され始めた。


図1 口腔ケアの有無による発熱発生者、肺炎発症者、肺炎による死亡者数の比較
図1口腔ケアの有無による発熱発生者

口腔ケアが医師の注目を集めるようになったきっかけは、米山歯科クリニック(静岡県駿東郡)院長の米山武義氏が1999年にLancet誌に発表した、口腔ケアによって要介護高齢者の誤嚥性肺炎の発症率が減少するという論文だ(図1)。

その後、VAP(人工呼吸器関連肺炎)の予防にも有効だという報告が相次ぎ、これら肺炎予防に関しては医師の認識が高まっている。

最近、頭頸部癌や食道癌の患者に対し入院前に口腔ケアを行っておくと、術後の合併症率が減少するというデータが報告されている。ここでいう口腔ケアとは、専門家の手によって歯垢や歯石を徹底的に除去し、口腔内を可能な限り清潔に保つことだ。

図2 口腔ケアの有無による術後合併症率の比較
図2口腔ケアの有無による術後合併症率の比較

 

唾液が手術部位を通過する場合には創部感染を起こしやすいが、「口腔ケアを行った上で手術を行うと、感染のリスクが減って、患者が経口摂取できるまでの期間が短くなり、結果的に退院も早まる」と、静岡県立静岡がんセンター歯科口腔外科部長の大田洋二郎氏は話す。

実際に、大田氏らが頭頸部癌の再建手術を受ける患者に術前、術後の口腔ケアを行ったところ、患者が摂食を開始できるまでの日数が有意に短くなり、術後合併症率も有意に低下したという(図2)。


「これからはICU入室時や誤嚥性肺炎の予防といった場合に限らず、癌治療などでも術前、術後に口腔ケアを行うことがスタンダードになってくるのではないか」と語る米山氏。

また、癌の化学療法や放射線治療の副作用による口内炎の症状が軽くなるという報告もある。東京慈恵医大柏病院腫瘍・血液内科診療医長の西脇嘉一氏は、「口内炎は癌患者や造血幹細胞移植を受ける患者のQOLを著しく低下させる。口腔ケアの必要性について以前から認識はしていたが、専門外の分野のため対応に困ることが多かった」と語る。それが口腔ケアを導入してからは、患者の口内炎の症状が軽くなっていると実感しているという。

その他にも、胃瘻を造設した患者に口腔ケアを続けたところ少しずつ摂食が可能になった、インフルエンザ予防に有効である、など、口腔ケアの効果については様々なことが言われるようになってきており、その位置付けは変わってきた。

「口腔ケアを行うことは単にエチケットのためだと考えられてきたが、その認識が2000年ごろを境に変わり始めた。これからはICU入室時や誤嚥性肺炎の予防といった場合に限らず、癌治療などでも術前、術後に口腔ケアを行うことがスタンダードになってくるのではないか」と、米山氏は語る。

黒原 由紀

 

 

2008.6.30 記事提供 日経メディカル