◇日本での摂取量少なく 消費者に誤解も
マーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸が、心臓疾患などのリスク要因として注目されている。消費者庁が、その情報開示のガイドラインづくりに乗り出した。ただ、たんぱく質、炭水化物など基本的な栄養成分の表示さえ義務化されていない。その段階でなぜ、トランス脂肪酸だけが優先されるのか。「まずは栄養成分の表示を」という声が専門家らから出ている。【小島正美】
トランス脂肪酸は、マーガリンのほか、菓子パン、クッキー、ドーナツ、ケーキ類などに多く含まれる。サクサクした食感が出るメリットがある。ただ、欧米ではとり過ぎると悪玉コレステロールが増え、動脈硬化など心臓疾患のリスクが高くなるとの報告がある。03年、WHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)の合同専門家会議が示した目安がある。「1日の総エネルギー摂取量に占めるトランス脂肪酸の比率を1%未満に」
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では、日本人の摂取量はどの程度か。食品安全委員会によると、1日平均摂取量は国民健康・栄養調査の食品摂取量から推定して、0・7グラムで、総エネルギーに占める比率は0・3%だった。ところが、米国では1日平均摂取量が5・8グラムで、同比率は2・65%と注意目安の1%未満を超えている。EU(欧州連合)でも日本人より摂取量は多い。
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福島瑞穂消費者担当相は今夏をめどに、食品中に含まれるトランス脂肪酸の含有量を企業に自主開示させるガイドラインづくりをする方針を示した。消費者団体や専門家から疑問の声が出始めた。
日本生活協同組合連合会(約500生協加盟)の鬼武一夫・安全政策推進室長は「トランス脂肪酸表示は生協連の中でも優先度は高くない。まずは欧米では当たり前の栄養成分表示こそが重要だ」と話す。
心臓疾患のリスクを高める要因は、バターや肉類などに多い飽和脂肪酸やコレステロール、塩分、アルコールの取り過ぎ、喫煙、高血圧、肥満などだ。トランス脂肪酸は一要因に過ぎない。ただ、日本では脂肪、炭水化物、たんぱく質、食塩、食物繊維など基本的な栄養成分の表示すら義務化されていない。
畝山智香子・国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第3室長は消費者庁主催の公聴会で指摘した。「日本ではトランス脂肪酸の摂取が心臓疾患の死亡を増やしているデータはない。塩分の取り過ぎや高血圧に気をつけることの方が重要だ」
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また、トランス脂肪酸の含有量だけを開示させると、別の健康リスクが生じる可能性がある。たとえば、パーム油が原料のショートニングを使えばトランス脂肪酸は減る。ところが、飽和脂肪酸が増えてしまい、健康へのリスクは高くなる。
食品の栄養問題に詳しい川端輝江・女子栄養大教授は「日本人は飽和脂肪酸の取り過ぎの方が問題」と指摘したうえで「摂取量の少ないトランス脂肪酸の含有量を開示しても健康増進にはほとんど寄与しない」と話す。
日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会の蒲生恵美・食生活研究会代表は「トランス脂肪酸だけを悪者にすると『これさえ控えれば大丈夫』と消費者をミスリードしかねない」と懸念し、「食品の栄養成分を総合的に判断できるような表示が優先されるべきだ」と話している。
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◇トランス脂肪酸
植物油は常温で液体だが、水素を加えるとマーガリンのように固体になる。そのプロセスで生成される。牛乳やバターなど天然の乳製品にも含まれるが、企業の技術開発で含有量は減っている。たとえば、家庭用マーガリンでは100グラム当たり平均含有量は1・8グラムで、4年前に比べ約4分の1になった(日本マーガリン工業会調べ)。外食産業のミスタードーナツでもドーナツ1個あたり約0・2グラムで3年前に比べ8割近くも減らしている。
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■主な食品中のトランス脂肪酸含有量
(100グラムあたりの量。単位グラム)
=食品安全委員会資料から
食品 平均 最小-最大
ショートニング 13.6 1.15-31.2
マーガリン 7.00 0.36-13.5
クリーム類 3.02 0.01-12.5
バター 1.95 1.71- 2.21
ビスケット類 1.80 0.04- 7.28
マヨネーズ 1.24 0.49- 1.65
チーズ 0.83 0.48- 1.46
ケーキ類 0.71 0.26- 2.17
菓子パン 0.20 0.15- 0.34
※クリーム類は、クリームや乳を原料とする加工食品やコーヒー用のクリーミングパウダーなど