妊婦 妊娠中は体重が増えないようにすべきか

 低体重児は将来、生活習慣病になりやすい──。この説は、「成人病胎児期発症説」と呼ばれ、今、周産期医療の現場で注目されている。

  胎児期に長期間低栄養状態におかれると、脳の発育が優先されて血管系、膵臓、腎糸球体、心臓などの臓器が不可逆的な変化を起こし、発育不全になる。低栄養環境に適応するためエネルギー倹約型の体質になり、生まれてから普通の食生活を送っても肥満になりやすい。生活習慣などと相まって、成人期に高血圧、糖尿病、冠動脈疾患などが高率に発症するという。

図1

 1980年代に英国のBarker氏らが、出生時体重と将来の心血管疾患死亡率との関連を発表したのがこの説の始まりだ(図1)。その後、複数の欧州の疫学研究で検証され、世界的にコンセンサスが得られてきた。

出生時体重と、65歳未満での心血管疾患による死亡リスクを分析した結果。出生時体重が低いほど心血管疾患による死亡リスクは高くなる。 (出典:BMJ 1993:307;1519-24.)

 愛育病院(東京都港区)産婦人科医長の竹田善治氏は、「国内でも2000年ごろからこの考え方は広まり、妊婦体重管理が見直されてきた」と説明する。従来、国内では「小さく生んで大きく育てる」「妊娠中は、太らないのが理想」といった認識の下、体重増加を抑制する方向に指導されるケースが多かった。「巨大児や妊娠高血圧症候群、帝王切開など、肥満による周産期合併症のリスクが強調されすぎて、やせている人に対してあまり意識がいっていなかった」と竹田氏は話す。

 やせた妊婦が、低出生体重児を生むリスクが高いことも明らかになっている。愛育病院のデータでは、BMI 18.5未満で妊娠中の体重増加が5kg以下の場合、低出生体重児(2500g以下)が44.1%に上った。なお、人口動態統計によれば、低出生体重児の出生率は80年に5.2%だったのが08年は9.6%まで上っている。

  従って最近は、やせ体形で妊娠中も体重増加が不十分な人への指導が課題になっている。出産適齢期の日本人女性では、BMI 18.5未満のの人が年々増えており、「妊娠してもバランスが崩れた食生活が変わらないケースも目立つ」(竹田氏)。

BMIに合わせた体重管理を

  06年には、厚生労働省から「妊産婦のための食生活指針」が出され、妊娠前の体形(BMI)に合わせて、適切な体重増加を指導していくことが求められている(表1)。国内ではまだ生活習慣病との関連を明らかにしたデータはないが、適度な体重増加は、周産期合併症の発症頻度を減らせることが分かっている。

表1

2010.4.19 記事提供:日経メディカル