コレステロールというと悪者扱いし、肉や脂肪を避ける人が多い。その発端になったのは、今から40年位前、アメリカで心筋梗塞(こうそく)などの心臓病が死因のトップとなり、原因が高コレステロール血症によると疑われ、その考え方がそのまま日本に入ってきたからだ。
ところが当時、日本では脳卒中が死因のトップで、その原因は肉や脂肪不足で血管が弱くなったためで、コレステロールをやたらに恐れるのは逆療法であった。
実はコレステロールは健康維持、老化防止にはなくてはならないもの。そのため人は、体内のコレステロールの60−80%を肝臓で合成しているのである。コレステロールは細胞膜やストレスに対抗する副腎皮質ホルモン、また女性ホルモンや男性ホルモンを作るのに重要な成分であり、他に脂肪の消化吸収に不可欠な胆汁酸、骨を丈夫にするのに必要なビタミンDを作る原料でもある。
その上、コレステロールは脳と神経系に多く含まれている。成人の体内のコレステロール量である100−150グラムのうち4分の1位が脳に集中し、脳の情報を体の隅々まで伝達する一端の役割を果たしている。
それではどの程度の量、体内にコレステロールを保持したらよいのであろうか。目安として、血中総コレステロールの基準値は、1デシリットル中120−219ミリグラム、これより低い人は肉や動物性脂肪をしっかり摂った方がよい。ただし、血中総コレステロール値が上がりやすい人(家族性高コレステロール血症)や心筋梗塞や脳梗塞の病歴のある人は控え目に。
(新宿医院院長  新居 裕久)


 2006.10.21 日本経済新聞