春の息吹を感じさせる野菜の1つに「なばな」がある。これは、菜の花とか油菜(あぶらな)とも呼ばれ、安土桃山時代はもっぱら油を搾るために栽培されていたが、明治時代に入って若葉やつぼみを食べるようになったという。ほのかな苦みと独特な歯ざわり、濃い緑は寒さでしぼんだ心に元気を与えてくれる。

同時に大変栄養価の高い緑黄色野菜である。ミネラル類としては、カリウム、カルシウム、鉄などが、ビタミン類としては、カロテン、ビタミンB1、B2、C、E、K、葉酸などが多く含まれ、また食物繊維も豊富である。特に注目されるのは、ガン、動脈硬化、老化などを促す活性酸素を消去する働きがあるビタミンC、E、B2、カロテンといった抗酸化作用の強いビタミン類が沢山含まれ、相乗効果が期待できることだ。

ところで、ビタミンEは摂り過ぎても体によくない。このビタミンは、自ら酸化されることによって、活性酸素の働きを抑えてくれるのだが、ビタミンE単独だと、酸化したビタミンEが体内に多くなり、かえって細胞を攻撃する悪役に転じる。

しかし、なばなのようにビタミンCが一緒にあると、悪役となったビタミンEに酸素を渡して安定させ、再度、抗酸化作用が発揮できる状態に戻す。ビタミンCは水溶性なので、脂溶性のビタミンEと違い排泄されやすく、沢山とっても体に害を与えにくい。

ところで、ビタミンCは、水に溶けやすいので調理によって壊されやすい。なばなはゆでずに、そのまま油揚げなどといため、だし汁少々を入れ調味した炒め煮やてんぷらなどにして摂るとよい。
(新宿医院院長  新居 裕久)

 

2007.3.31 日本経済新聞